第21話 ロボットとケーキと運動会 破
玄関を開けると眩しい光が差し込んできました。雲ひとつない晴天です。
「いい天気だね!」
「そうですね」
「今日は運動会日和ってやつだね」
「そうですね」
チャーリーは準備のために先に学校に行っています。エディーはかなり緊張した面持ちで魔法学校へと向かいました。そのまま順調に歩いていたのですが……。
「しまった」
「どうしました?」
「お腹痛い……」
あららら。エディーったら緊張しすぎたようです。しかしそれも当たり前のことかもしれません。何せエディーは目立ちます。
顔立ちや耳もさることながら、若草色の髪が剥き出しになっていると、すれ違ったら十人中十人が振り返ります。好奇心、単純に見惚れている、珍しいものを見たという驚きなど、悪意ある視線ではないにせよ、じろじろ見られるのは人類には負担です。
「帽子持ってきましょうか?」
「いや、いいよ」
「無理しちゃだめですよ」
「無理だったら言うよ」
「でも」
「いいから」
エディーは塀にもたれかかって私の方を見ました。瞳が妙に潤んでいます。本当にお腹が痛そうです。大丈夫でしょうか。
「変なお願いしてもいい?」
「どうぞ」
「ちょっとだけ僕の手を握ってて」
確かに変なお願いですね。
「私に温もりはありませんよ」
「どうとらえるかは僕しだいじゃないかな」
なるほど、そうかもしれません。黙って手を差し出すとエディーの手がそれを包みました。けっこう手が大きいんですね。
「落ち着きます? これで」
「うん」
ロボットとハーフエルフが手を繋いで立っているのは、かなり珍妙な光景でしょう。しかしエディーが言う通り、どうとらえるかはエディーしだいです。
「……僕ね、D2と話してて気がついたんだよ。僕は、僕の家族のことが好き。今のお父様が何を考えているのかはよくわからないけど、僕はいつかいなくなってしまうことがわかっていても、チャーリーやお父様ともっと楽しい思い出を作りたい。短い人生なんだもの、嫌な思いなんかしないでのん気に生きてほしいよ。でも本人が戦うっていうのなら、それも応援したい」
エディーは軽く息を吐きました。
「僕は無知だし無遠慮なところもあるし、何より弱虫だから、これからも高性能な君のことを頼ってしまうけど、付き合ってくれると嬉しい」
「それを言われて断るロボットはいませんよ。私たち、頼られること大好きですから」
「うん。ありがとう」
✳︎✳︎✳︎
「で、D2」
「はい何でしょう」
「僕ら場違いな格好で来ちゃったみたいだね」
「……そのようですね」
周りの父兄はポロシャツにジーンズなど、軒並みラフな格好をしています。
「と、とりあえずジャケットは脱ごうかな」
エディーがワタワタしている間に生徒たちが校庭に出てきました。
「あ、チャーリー」
私が手を振るとチャーリーがこちらにやってきました。最初は嬉しそうな顔でしたが、近づくに連れて嫌そうな顔に変わります。
「…………パーティーじゃないんだからさ。ひきこもりのバカ兄貴はともかく、D2はもうちょっと常識を考えてよ、ポンコツだなあ」
悪目立ちしたくない思春期らしく辛辣な評価です。ひきこもりのバカ兄貴はともかく、と匙を投げられたことに対し、エディーはちょっとショックみたいです。
「まあまあ、そんなこと言ってもしょうがないでしょう、今更着替えられませんし」
エディーが落ち込むといけないのでフォローします。
「ほら、今日は運動会なんだから明るく楽しくいきましょうよ! 」
「うーん……まあいいけどさあ」
その時、チャーリーに声をかけてくる生徒がいました。
「チャーリー、きみ最初の競技出るだろ? 集合かかってるよ」
「今行く」
赤毛に大きな眼鏡、気の弱そうな少年には見覚えがありました。特別クラスの生徒です。
「弁当食べる時、コイツとあともう一人の友達誘ってもいい?」
「いいですよ」
「やった。じゃあ俺もう行くから」
話の展開に置いていかれているエディーを尻目に、二人は走り去ってしまいました。
「えーっと、今の眼鏡の子、チャーリーの友達?」
「そう言ってましたよ。特別クラスの生徒ですね」
「え」
エディーの目がすうっと細められました。
「そうなんだ。特別クラスの」
警戒するのも無理はないですが、顔が怖いです。
「チャーリーが友達だと言ったんですよ」
エディーは一つ、息を吐きました。
「それもそうか」
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