第15話 ロボットとカレーうどんの不思議 破

「チャーリー、ちょっとお話があります」


「なに? 」


「実は私、今日一日、貴方のことをつけてました 」


「はあ!? 」


「正確には貴方の制服とノートが汚れていたことを心配したエディーと相談し、私の判断で貴方の学校での様子を見ていました」


チャーリーはバツの悪そうな、悪戯を見つかった子どものような表情になりました。貴方がそんな顔する必要ないのですよ、チャーリー。


「法に照らし合わせ不適当と判断した行為は教育委員会と警察に相談済みです……が、彼らもヒマではないのですぐには動かないと思います」


私はチャーリーに向き合いました。


「エディーにはまだ報告していません。貴方自身の言葉で伝えた方が良いと推察しますが、いかがでしょう? 」


チャーリーは何も言わず目を伏せたままです。


「チャーリー。私とエディーに貴方の言葉で話してくれませんか?悩みも痛みも分け合うことはできませんが、分かりあうことはできるんですよ」


私が問いかけると、チャーリーは大きく息を吐いてから、ゆっくりと口を開きました。


「何?兄貴にいじめられてます辛いんですって泣きつけばいいの?それとも授業中周りから外されてますとか、突き飛ばされてすっ転んで制服汚しましたごめんなさいとか、そういうこと言えばいいわけ?バカにするのもいい加減にしろよ、人の心がわからないにもほどがあるぞポンコツ」


チャーリーは怒りに満ちた目でこちらを見つめてきます。


「貴方のプライドを蔑ろにしたつもりはありません。怒らせてしまってごめんなさい。でもね、チャーリー。エディーはちょっと頼りないかもしれませんし、私はポンコツかもしれません。ですが貴方の助けになりたいと願っています。貴方の役に立ちたいと思っています。頼ってもらえたら、全力で貴方を支えます。貴方が相談してくれたらね。エディーは心配してましたよ」


「余計なお世話だよ。おれの問題だ。一人で大丈夫。誰にも迷惑かけずに生きていく。もうっとけよ! 」


「迷惑と相談は違いますが、そうですか。わかりました。エディーには黙っていてほしいということでしたら黙っていることにします。ですが……」


「なんだよ? 」


「じきにバレると思いますよ?彼奴きゃつらつけあがってますもの」


「いざとなったらぶちのめすから大丈夫だよ。問題は解決しないし面倒だからやらないけど、本当はぶん殴るくらいわけないんだ。母さん譲りの武術でね」


「それは貴方が暴行罪になるのでは」


「正当防衛だって」


チャーリーは鼻を鳴らしました。


「ですが……」


「なんだよ、もう」


「これから僕は見送る一方だ。お父様も、チャーリーでさえも、僕より先に死んでしまう。僕は一人で、ずっと一人で生きていく。どんなに愛していた人も、僕の横を通り過ぎていってしまう」


「……兄貴がそう言ったのか」


「そうです。それでもチャーリーのために何かできることはないかともがいています。もがいているだけですが」


チャーリーは頭を掻きむしりました。


「あー!もう!わかったよ!言うよ!言えばいいんだろ言えば! 」


チャーリーは嫌々といった様子まる出しでエディーを呼びました。


「兄貴、後で話しがある」


エディーは私とチャーリーを見比べて、ゆっくりとうなずきました。


「わかった」


食堂で話し合いをするようなので、私はお茶を淹れるためにキッチンに戻りました。食堂に行こうとすると何やら騒がしい物音がします。


「ちょ、落ち着いて!落ち着いてったら! 」


そう声をあげているのはチャーリーです。エディーが取り乱したのでしょうか?食堂に入ると椅子という椅子が宙を舞っていました。


 ……つまりです。私の推測は当たっていました。エディーが取り乱して最も初歩の魔法の一つ、念動力で椅子を動かしてしまったというわけです。ひきこもりが板についているとはいえ、彼はハーフエルフ。膨大な魔力を持っています。椅子を複数浮かせることくらいわけないのです。わー、すごーい。


「一旦落ち着こう、一旦落ち着こう、ね?椅子は地面におろそう? 」


チャーリーが慌てています。


「ごめん、ちょっと驚いちゃって……」


「驚いたら椅子浮かせるのかよ。こっちがびっくりだよ」


チャーリーの言葉にエディーは恥ずかしげにうつむいてしまいました。恥ずかしがるところではないと思うのですが。


 仕方ありませんね。ここは私が一肌脱ぎましょうか。私はハーブティーをテーブルに置き、チャーリーの肩を叩きました。にっこりと微笑みかけます。励ましの笑みです。


 何故かチャーリーは怖がっています。あらあら。まあエディーが椅子なんて飛ばしてましたからね。


 しどろもどろ、チャーリーが話したことを要約すると、ノートと制服が汚れたのはたしかに同級生のせい、根っからの貴族様の同級生とはあまりうまくいっていない、しかしながら部活動や他クラスの友達との関係は良好なのであまり大事おおごとにしたくない、ということです。


「状況証拠は押さえてあるので、警察と教育委員会には相談済みです。クソ担任と主犯は遅かれ早かれ処罰が下るかと」


と私も説明を付け加えます。途中、何度か椅子が浮きかけましたが、やがてエディーはため息を吐きました。


「……クソ野郎が処罰されるまで学校休んだら? 」


「やだよ!おれ悪いことしてないもん! 」


「……そうだね。チャーリーは何も悪くない」


エディーは何か言いたげに口をもぐもぐさせていましたが、もう一つため息を吐くと、


「話してくれてありがとう。お風呂いれてあるから入っておいで」


とチャーリーを食堂からさがらせました。なんとなく私もチャーリーと一緒に食堂を去ります。

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