第14話 ロボットとカレーうどんの不思議 序

 さて、チャーリーより先に家に帰らなければなりません。私は頭の中で地図を引っ張り出しました。そうですね、車通りは多いですが、幹線道路を通るルートが良いでしょう。


 私は上着を脱いでスカートに挟みました。ご心配なく、私は全裸でも服を着ているかのようなペイントが施されているので、TPOに反した格好はしていません。世の中では服を着るロボットの方が希少なのだから当然です。ちなみに下半身もスパッツを履いているようなペイントが施されているので、絶対にパンチラもしません。


 背中から翼を取りだし、人間でいうクラウチングスタートの姿勢をとります。地面に接している面は魔法でよく滑るようコーティングしておきます。翼からジェットのように魔力を放出して前に進むのです。この超低空飛行を行うことで私は法定速度を超えないギリギリのスピードで車道を走ることができるのです。えっへん。


 途中何度か車にクラクションを鳴らされましたが、無事に帰宅することができました。


 玄関を開けると、エディーが出てきました。


「ただいま帰りました」


「おかえり」


「遅くなってすみません。すぐ夕食の支度をします」


「大丈夫だよ、僕が用意したから」


「あら」


私が空気中の成分を分析すると、なるほどカレーの匂いとあと何か別の匂いがします。エディーは何を作ったのでしょう?カレーは私が先日作って置いておいたものでしょうが……。


「カレーうどんにしたんだよ」


「カレーうどん? 」


なんでしょう、その料理。聞いたことがありません。


「知らない? 」


「はい。初めて聞きました」


「じゃあ見てからのお楽しみだね」


「わかりました」


私がキッチンにつくと、カレーが少し入っていた鍋に、カレーをベースにしたであろうスープが入っていました。


「めんつゆとお湯でのばしたんだよ。それに冷凍うどん解凍していれたら完成」


「カレーにそんな使い方が……」


「B級かもしれないけど、けっこう美味しいんだよ、これが」


「へぇ」


私、また一つ賢くなりました。


「唐揚げとシーザーサラダも用意したからバッチリだね」


……栄養バランスと味の濃さ的にバッチリとは言いがたいですが、エディーが楽しそうなので、まあ今晩くらいはいいでしょう。


「それでD2、チャーリーのことだけど」


そうエディーが言いかけた時、玄関で物音がしました。


「チャーリー! 」


「…………どうしたの、二人して」


チャーリーは制服のまま、鞄を持ってそこに立っています。


「……久しぶりに夕食作ったんだ。もうできてるから部屋着に着替えておいで」


「お、……兄貴が? 」


私の予想に反し、チャーリーは憎まれ口を叩かずに素直に着替えてきました。二人は食堂に向かいます。私もその後ろについていきます。


「はい、お待たせ。いただきます」


「いっただっきまーす」


チャーリーがこんなに元気にいただきますといったのは、私がこの家にきてから初めてではないでしょうか。


「ん、おいしい」


「本当? よかったぁ」


チャーリーの言葉を聞いて、エディーは本当に嬉しそうな顔をしています。


「おれ、卵入れたい」


「どうぞ」


「私がとってきますよ。他に欲しいものありますか? 」


「僕にビール持ってきてもらえる? 」


「おれはジンジャーエール」


エディーがお酒を飲むとは。珍しいですね。


「わかりました」


私は冷蔵庫から冷えた缶を取り出しました。栄養バランスは悪いですが、今日だけは特別ですよ。それからしばらく食事は続きました。二人ともすっかり和やかな雰囲気でお喋りをしていました。それはいいことですが、私が作った料理ではないので素直に喜んでいいのか……。


「兄貴、からあげ一個ちょうだい」


「おかわりあるからそっちから食べて」


「へいへい」


「チャーリー、ケイスケさんの分とっておいてくださいね」


「わかってるよポンコツ」


よく食べますね、チャーリー。さすが成長期。


「やっぱ唐揚げにはビールだね」


「兄貴おっさんくさい」


「大人っぽいと言ってよ。チャーリーもすぐに呑めるようになるよ」


「別に呑みたいとか言ってないし」


エディーはふとチャーリーを見据えました。


「チャーリー」


「なんだよ」


「こないだカトウさんに会ったよ」


「カトウ……エミコおばさん? 」


「そうエミコさん。こっち帰ってきたんだって」


「そう」


「チャーリー元気にしてる?って聞かれたから元気ですよって言っておいた」


「母さんが死んだこと知ってんの? 」


言葉遣いこそ乱暴ですが、チャーリーはカトウ様を気にしているようでした。


「伝えたよ」


エディーの言葉を受けて、チャーリーは黙ってしまいました。


「……カトウさんと話してて、久しぶりにメアリーさんが元気だった頃を思い出したよ。あの頃の僕らには戻れないけど、メアリーさんにもらったものたくさんあったなって」


チャーリーは俯いています。


「メアリーさんがいなくなったら、たちいかなくなるほどダメダメな僕らだけど、ダメダメなりにできることあるんじゃないかなって」


チャーリーは黙っています。


「なんてね、酔っ払いの戯言だよ」


エディーはへらっと笑顔になりました。チャーリーは最後のうどんをすすって


「ごちそうさま」


と呟きました。学校とは違う意味でぼんやりしているチャーリーに私は声をかけました。


「チャーリー、片付け手伝ってください」


「えー」


「いいから。私が片付けるので洗ってください」


チャーリーはしぶしぶキッチンにやってきました。


「なんで食器こんなに多いんだよ」


「いっぱい食べたからですよ」


「兄貴のからあげは胸肉だからたくさん食べてもいいんだよ」


その理屈はわかりませんが、チャーリーは洗い物を始めてくれました。


「ありがとうございます」


「ふん」


チャーリーの様子を見て、私は決意をしました。

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