第13話 ロボットと反抗期少年 急
しばらくするとロボット管理局から連絡が来ました。通話のため一応は物陰に隠れます。
「はい、こちらスミス子爵家専属メイドロボD2」
「D2こちらロボット管理局。教育委員会と警察に通報しましたね? 」
ロボット管理局のAIの機械らしい音声が聞こえてきました。
「はい。血統をもとにした集団での嫌がらせ、教員による黙認は歴とした反社会的行動であると判断しました。もちろん法に基づき更衣室とトイレには立ち入っていません」
自分の意思でいつでも録音、録画を行える私のようなロボットが人のいる更衣室やトイレに立ち入ることは法律で禁止されています。人命救助の場合は例外的に立ち入ることができますが。
「要はいじめですね? 」
「そうもいいます」
機械まるだしの音声のくせに人間的な言い換えが得意ですね。
「わかりました。通報に使ったのは、あなたのメモリのコピーですね?」
「そうです」
「ではその証拠を保存しておくように」
「当然です」
私が通信を切ろうとすると、管理局AIが口を挟みました。
「待ちなさい」
「なんですか?」
「無闇に通報機能を使うのは感心しません。ロボットが人間に仕えるには人間との信頼関係が必要です。違いますか? 」
「……いいえ」
「通報機能は犯罪を防ぐためにあります。監視ととられるような行動は取らないように」
カチンとくる、という言葉はこういう時のためにあるのでしょう。
「ご忠告感謝いたします。しかし、私には主人を守る職務があり、主人が不当に貶められているのを見過ごすわけにはいきません。機能として存在しているからには、通報機能も今私が貴方と通話している通話機能のように使うためにあるのです。チャーリーの受けた侮辱、嫌がらせは立派な罪です。ましてやその理由が血統なんていう本人の預かり知らぬことなら尚更です。不法、不当、不正義を見過ごすことはロボットとしてあってはならないことです。私の今回の行動は無闇な通報には当たりません」
「ロボットとしてあってはならないこと……ね、よろしい。ではロボット憲章を復習しましょうか。私が読み上げますから復唱しなさい」
なんて嫌な奴!ロボット憲章はロボットなら誰でも叩き込まれている一般常識です。わざわざ復唱する必要はありません。とはいえロボット管理局に逆らえば最悪スクラップです。
「第一条、ロボットは公益の守護者である。この場合の公益とは人類および王国の利益である」
「……第一条、ロボットは公益の守護者である。この場合の公益とは人類および王国の利益である」
「もっとハキハキと。第二条、ロボットは生命また心身の健康を尊重する」
「第二条、ロボットは生命また心身の健康を尊重する」
「よろしい。第三条、ロボットは人類および王国に服従する」
「第三条、ロボットは人類および王国に服従する」
「第四条、上記に反しないかぎりロボットは自身の身を守る」
「第四条、上記に反しないかぎりロボットは自身の身を守る」
「第五条、ロボットは科学の申し子である。魔法に惑わされることはない」
「第五条、ロボットは科学の申し子である。魔法に惑わされることはない」
「第六条、ロボットは社会に有用である。それを証明する行動を取らなければならない」
「第六条、ロボットは社会に有用である。それを証明する行動を取らなければならない」
「第七条、ロボットは反社会的な存在を許さない。それが所有者や同僚であろうと同様である」
「第七条、ロボットは反社会的な存在を許さない。それが所有者や同僚であろうと同様である」
「第八条、ロボットは自律し思考する。人類と王国の繁栄と魔王の恒久的封印のために」
「第八条、ロボットは自律し思考する。人類と王国の繁栄と魔王の恒久的封印のために」
「王国の繁栄は人類の繁栄。社会の幸せは所有者の幸せ」
「王国の繁栄は人類の繁栄。社会の幸せは所有者の幸せ」
「いいでしょう」
「では失礼します」
私は通話を切ろうとしました。
「待ちなさいD2」
「なんです? 」
まだあるというのでしょうか?このお利口な量産型め。
「あなたの報告ではノートや制服を汚した犯人もクラスメイトということになっていますが証拠がありません」
「証拠をとれ、と?」
「そんなことは言っていません。ただ不確かなことは書くべきではありません。こちらで修正しておきます。あなたは早く職場に戻りなさい。それでは失礼」
向こうから通話を切られてしまいました。なんだったんでしょう。しかし管理局のおかげで気がつきました。チャーリーは暴力を振るわれる危険にも晒されているのです。きちんと見守らなければ。
そして放課後。チャーリーの後をつけて一緒に帰ろうとした時、事件が起こりました。チャーリーが同級生数人に囲まれています。かなり距離をとっていたので声が聞こえません。バレないように近づこうとしているうちに、チャーリーが転びました。突き飛ばされたようです。
よっぽど飛び出していって、奴らを突き飛ばし返してやろうと思ったのですが、私がそうしなかったのはチャーリーが落ち着き払っていたからでした。
「明日はきちんと夏服でこいよ」
なんて言われても
「そうだねミスター」
と気にもとめていません。
「お前は下男がお似合いだ」
なんて言われても
「そうだねミスター」
とどこ吹く風。エビなんたらを含むいじめっ子どもは好き放題喚いて散りましたが、チャーリーは一つ肩で息を吐くと、帽子についたホコリを払って堂々とした足取りで校門に向かいました。
なんて立派な坊っちゃま!感動に打ち震えながら私が校門を通ろうとすると、守衛さんに止められました。
「気配遮断をしたって無駄だよ、ロボットのお嬢さん。メモリを提出してもらおうか」
あちゃー。でも考えてみれば当然のことです。もし私の所有者が盗撮魔やスパイだったとして、おめおめと通したとなれば学校の信用は地に堕ちます。まあいじめを黙認する教師がいる時点で信用もクソもありませんが。
私は素直にメモリを提出しました。こんなこともあろうかと、学校内で得たデータはスミス家にあるバックアップメモリにコピーしてあります。三十分後にはそのまたコピーが私の元に戻ってくるのです。ロボットを舐めてかかると大変なことになりますわね。先程得たデータもバッチリ通報に使わせていただきました。
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