第7話 ロボットとスミス一家 急

 エディーは事務的に家を案内し、台所や掃除機の使い方を教えてくれましたが、どうも上の空でした。気乗りしない相手に喋り続けるのもよくないので、私は黙るしかありませんでした。


「本日はありがとうございました。またわからないことがありましたらよろしくお願いします」


エディーはぼうっとしたままです。


「あの」


「いいよ、なんでも聞いてね」


優しい言葉とは裏腹に、エディーの私に対する興味は薄いようです。どうやら私の採用はケイスケさんの独断で、ご子息への説明は十分でなかったようです。私の分析を察してかどうかは知りませんが、エディーが言いました。


「ごめんね、僕はあまり社交的な方ではなくて‥…君に慣れるまで少し時間がかかるかも」


「はい、わかりました」


その後、私は掃除と夕食の支度をすることにしました。まずは掃除機を使って、家じゅうの床と階段を掃除していきます。ゴミを集めるための袋を持って、部屋から部屋へと歩き回りました。二階が綺麗になり、一階にゴミを持っていこうとした時、階段で足を踏み外してしまいました。


 階段を踏み外すなんて、二足歩行が難しいと言われるロボットとはいえ初歩的ミスです。なんだか腹立たしいので階段をきっちり計測しました。私は高性能なので目で見た情報を解析すれば、誤差の小さい正確なデータを得ることができます。


 かなり大きな音を立ててしまったので、エディーが様子を見に来ました。


「大丈夫?転んだの? 」


「ええ。初歩的なミスをしてしまいました。ご心配なく、階段を踏み抜いたり壊したりしていません」


エディーはこちらに駆け寄ってきました。


「誰も階段の心配なんかしてないよ、君は大丈夫?頭打ってない? 」


頭を打ったぐらいでパフォーマンスが落ちるわけないのですが?とは思いましたが心遣いはありがたいので


「ありがとうございます、大丈夫です」


と言っておきました。


「そう……気をつけてね」


エディーはまだ心配そうでした。本人も自覚している通り社交的ではありませんが、エディーは優しい人……ハーフエルフなのです。まあ人間と同じ扱いをして問題ないですね、と私は思いました。


 夕方、チャーリーが魔法学校から帰ってきました。不機嫌そうに靴を脱いでいる栗色の髪の美少年は、メアリー様のお写真によく似ていました。瞳はケイスケさん譲りのとび色ですが、ぱっちりとした二重瞼はメアリー様に似ています。


「おかえりチャーリー」


エディーが声をかけますが、チャーリーは無視して自室に行こうとします。挨拶をしたかったので階段の前で待たせてもらいました。


「チャールズ様おかえりなさいませ。本日からお世話になりますD2と申します」


チャーリーは私に近づき、じっと見つめました。背丈は私と同じくらい。近くで見ると子どもらしい顔つきをしています。


「……」


「よろしくお願いします、チャーリー」


「…………」


「チャーリー? 」


「………………」


「チャーリー! 」


「うるさいな、何だよ」


「ご挨拶をさせていただきました」


「ああ、そう」


チャーリーはフンと鼻を鳴らすと


「変な色」


と呟いて私の横を通り抜けようとしました。聞き捨てならない台詞なので通せんぼさせていただきました。


「な、なんだよ」


「何が変な色なんですか? 」


「いや、その」


食堂でお茶を飲んでいたエディーが茶々を入れました。


「チャーリー怒られてやんの」


「うるせえバカ兄貴! 」


チャーリーは私の隣を無理くり通って自分の部屋に行ってしまいました。


「ごめんね、チャーリーは近ごろ口が悪いんだ。ちょっと嫌味を言いたかっただけで本気で変な色なんて思ってないよ」


エディーがとりなしてきます。


「いえ、気にしていません」


でもこの反抗期真っ盛りの言動は多くの人に不快に思われる、ということは教えていかなければなりませんね。チャーリーは子どもですからね、一過性のものかもしれませんが。


 それから夕食を作って、全く会話の弾まない兄弟の食事を見守り、真夜中にご帰宅されたケイスケさんに夜食を用意して、私のスミス家での最初の一日は終わりました。

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