第6話 ロボットとスミス一家 破
スミス子爵邸について、簡単にご説明しましょう。建物を建てたのは、ケイスケさんの先代、つまり現在のミヤサカ=スミス一家とは血の繋がりのない、エドワード・クリストファー・スミス子爵様です。エディーことエドワードの名前はこのエドワード・クリストファー様が由来です。
自身は実子に恵まれなかったエドワード・クリストファー様は、エディーの誕生を心からお喜びになったのだとか。エディーが一歳になる前に亡くなりましたが、現在のスミス一家も彼のことは心から慕っています。
この建物の構造はいたってシンプルです。玄関を入るとまず広いホールがあり、正面には階段があります。先述の通り家の中ではスリッパ、または裸足です。二階は居住空間となっていて、三人とも自分の部屋があります。私も二階の女中部屋だったところを自室にしています。また三階には書斎らしきものがありますが、普段は鍵がかけられています。そして一階に食堂とキッチン、応接間があります。地下室は倉庫にしています。トイレは地下室を除く全ての階にあり、大きな風呂場が一階にあります。
最初に家を見てまわった時、私が気にかかったのは廊下に飾ってある肖像画と写真です。エドワード・クリストファー様はじめスミス子爵家の人々とメアリー様の写真が飾られていました。肖像画から写真に切り替わったのはエドワード・クリストファー様の二代前からです。
皆さん厳しい顔をしているなか、メアリー様は笑顔でした。その表情から察するに明るい人柄の方だったのでしょう。金髪にヘーゼルの瞳の快活そうな美人という印象です。長い髪をシニヨンにまとめて白いブラウスを着てらっしゃいます。
家の中の設備も確認していきました。水回りを中心に見てまわりましたが、特に問題はなさそうでした。二階の様子を見る際にエディーの様子を伺おうとしたのですが気配がありません。私は庭を散策させていただくことにしました。
庭は広く、花壇や芝生があります。手入れされた花壇にはバラが咲き誇っていました。池もあり、大きな魚が泳いでいました。錦鯉のようです。芝生は青々としていて、ところどころに木が生えています。私は池のほとりに座って水面を眺めました。アメンボが泳いでいたり、池の中で水草が揺れていたりなかなかに風情があります。
ふと人のいる気配がして池から目を離すと、建物の影から背の高い青年が出てくるところでした。これが私とエディーの初対面です。私はスカートの裾を摘んで、お辞儀をしました。
「おはようございます、エドワード様。本日よりこのお屋敷にて家事代行を務めさせていただきます、ライト研究所製人型コミュニケーションロボットD2と申します」
エディーは戸惑っているようでした。
「家事代行のロボットだって? 来るの今日だったのか……えっと……なんというか……すごく綺麗で驚いたよ」
「ありがとうございます、エドワード様。エディーとお呼びしてもよろしいでしょうか? 」
「ああ、いいよ。どうぞ」
エディーは頭をかきました。
「君のこともD2って呼んで良い? 」
「はい、どうぞ」
それからエディーは落ち着かない様子で、しきりと体を動かしています。
「こんなこと聞くのおかしいんだけど、お父様ってもう出かけたの? 」
「ええ、急にお仕事が入られて」
「そっか」
私とエディーの間に、気まずい沈黙が流れました。
「あの」
私が先に口を開きました。
「ハーフエルフ……でらしたんですね」
そう。私は顔を合わせるまで、エディーがハーフエルフであることを知らなかったのです。
エルフ、長耳族、森の民。呼び方は様々ありますが、この世界にはヒトに近い、しかしながらヒトではない種族がいます。ヒトと比べて永遠ともいえる長い寿命と膨大な魔力量は、ある時代では神聖視され、ある時代では畏怖されましたが、ヒトとエルフは隣人としてなんとか共存しています。
エルフとヒトは種が違いますが、言葉を選ばすに表現すれば、交雑種が生まれることがあります。それがハーフエルフです。ケイスケさんがこの世界に来て最初に子どもをもうけたのは、エルフの女性だったのです。
ハーフエルフの説明がてら、エディーの容姿について詳しく解説してみましょう。
まずパッと目を惹くのが若草色の髪。ゆるくウェーブがかかっていますが、これは天然パーマです。エディーは理容室が苦手なので、髪は真ん中で分けて、顎の下あたりで切り揃えています。緑系統の髪の毛はヒトには見られない、ハーフエルフならではの特徴です。
瞳は
色白ですが青白いという雰囲気はありません。背筋もシャンと伸びていて、長い脚はまっすぐなので、精悍に見えないこともありません。後述の庭仕事など、引きこもりにしてはしっかり運動をしているからか、細身ではありますが健康的な体躯をしています。骨張っていて長い指はあまり器用ではありませんが、意外なほどの力を発揮することがございます。
長身で手足が長いのはエルフの遺伝子も関係しているのかもしれませんが、ケイスケさんも長身なのでよくわかりません。容姿に関して確実にエルフの遺伝子が発揮されているのは、髪と尖った耳でしょう。エルフの特徴である先の尖った長い耳は、エディーに受け継がれています。
ハーフエルフなのかと問われた時、エディーが一瞬怪訝な顔をしてから
「お父様は言わなかったんだね。そうだよ、僕はハーフエルフだ」
と呟くようにおっしゃいました。どうやら親子間のコミュニケーションがうまくいっていないようです。予想されていたことではあります。
「エディーはどうしてお庭に?もしかしてあの花壇はエディーが作ったのですか? 」
「そうだよ。庭仕事は好きなんだ」
「まあ素晴らしいです! 」
「ありがとう」
少しでも仲良くなろうと、色々質問をしてみたのですが、エディーはあまり気乗りしなかったようで、短い答えが返ってくるだけでした。
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