第4話 ロボット就職する 急

 私のように自分で考えて、あるいは命令に従って行動する人工物を『ロボット』と呼ぶようになったのは、五十年ほど前の転生者が関係すると言われていますが、それ以前からロボット的な存在はありました。魔導人形、ホムンクルス、ゴーレムなど魔法の介在する人造人間です。


 これらはあくまで『人間の代用品』であったため、先述の異世界人が持ち込んだ、人間の姿や能力に囚われない『ロボット』という存在は、革命的な発想でした。私ども『ロボット』はそれまで発展していた魔力による人造人間と、異世界人の持ち込んだ科学の融合により生まれた存在なのです。


 異世界人のもたらした科学技術はロボットだけに留まりません。科学と魔法の融合は同時多発的に起き、それまで魔王に支配されるしかなかった人類に、魔王に対抗し得る強大な力をもたらしたのです。人類は団結し、現在の王国の礎ができあがりました。


 ロボットは魔王との戦いにおいて重要な役割を担うようになりますが、困ったことがおこります。魔王によるロボットの乗っ取り、またロボットの自己判断による法律違反や事故です。そもそも洗脳や破壊は魔王の得意分野です。それに対抗するべく人類がとったのが、ロボットの脳内にネットワークを組み込み、制御するロボット管理局システムなのです。


 おっと、余計な情報を引っ張り出しすぎたようです。私は脳内で話を整理しました。つまり、魔法と科学の融合によって生まれた私どもロボットを、いついかなる場合も人類の規則に従うよう、ネットワークによって制御しているのがロボット管理局というわけです。


「ロボット管理局の制御……私たちの生活が監視されたりしませんか? 」


案の定ケイスケさんはロボット管理局を誤解されていました。私は説明したくてうずうずしていましたが、ここはライト博士に任さざるを得ません。


「もちろん、そんなことにはなりません。ロボット管理局はあくまでロボットの制御のために存在します。その過程で得られた個人情報は一日で削除されますし、警察や軍がその情報を得るにはきちんとした法的手続きが必要です。つまりですね、殺人事件を起こそうとか国家を転覆しようとかしない限り大丈夫です。D2は賢いですから、例えばご子息が兄弟喧嘩して『ぶっ殺す! 』とか言ったとしても通報したりしませんよ。文脈で判断できますから」


ライト博士の説明にケイスケさんは納得されたようでした。


「わかりました。彼女にします」


やった!やった!やった!私は小さくガッツポーズをしました。退屈な受付の日々は去り、若くて刺激的な人間が私を待っています。


「え、よろしいのですか? 」


ライト博士はその即決ぶりに戸惑われたようです。


「まだ他のロボットの説明をしていませんが……」


「いいんです。あまり選択肢があっても迷ってしまうので」


「そうですか……」


こうしてトントン拍子に私の仕事先が決まりました。そのままついていってもよかったのですが、ご子息に報告するとのことでしたので、私が日を改めて伺うことになりました。


 ライト博士は眉を八の字にしておっしゃいました。


「寂しくなるよ、D2」


ライト博士は娘同然に私を可愛がってくださいました。そのことを考えると後髪を引かれる思いもします。まあ私、後髪ないのですが。髪型はおさげで固定。髪の毛のように見えるのはそれっぽい素材で、実際には彫刻に近いものです。


「また遊びに来ますよ、ライト博士」


離れていても製作者とその作品という関係には変わりありません。私は博士に恥じない立派な家事代行ロボット兼コミュニケーションロボット、面倒なので言い換えましょう、メイドロボになろうと決意しました。

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