第4章

「今日、香澄と会ってみるわ」

姫子がぽつりと呟く。

「そうですか。お母さんも話したいと思ってますよきっと」

わたしは皿洗いをしながら応える。

冬になって指がひび割れしそう。

「痛っ」

あーほらね。

意識しない方がよかったかな?

「大丈夫?絆創膏とってくるね」

「ありがとうございます」

真冬となった今も下着姿で部屋にいる姫子を見てるとこっちが寒くなりそうだ。

エアコン代勿体なくない?

服着て調節した方がだいぶお得だと思う。

「はい。今日は家政婦の仕事で呼んだんじゃないんだから皿洗いはしなくていいのよ?」

「別にこれくらい仕事のうちに入りませんよ。いつもやってますからね」

姫子から絆創膏をもらって指に貼る。

絆創膏は可愛いうさぎのマークが付いている。

「連絡はしたんですよね?」

「うん。あと一時間後くらいに駅前のカフェで集合だって連絡も来た」

「あと一時間か……」

なんかドキドキする。

張本人の姫子にはそんな様子も感じられないけど。

「せっかくの日曜日だからゆっくりしたいところだけどそうはいかないわよね」

「そうですね。でも、仲直りしたら最高の休日になりますよ。カフェで楽しくお喋りすればいいし」

仲直りした場合は最高のひとときになるよね。

しなかった場合は……考えたくないかな。

「とりあえず、着替えましょう。その格好で外を出歩かれるのはちょっと……」

「さすがにそれくらいのマナーは分かってるわよ。スーツ以外あまり着ないのよね……。夢亜ちゃん服選んでくれない?」

「えーわたしがですか……。センスないと思うんですけど……」

貧乏家なので服とかそんなに持ってないんですよね。

友達から借りて雑誌とかはよく見るけど。

「お願い。香織の子供だから好みが一緒かもしれないし……」

「たしかに……」

姫子の言う通りわたしとお母さんはかなり似てる。

見た目は似てないけどね。

でも、性格とか趣味とかは同じかも。

「わかりました。じゃあ、姫子さんの服を見せてください」

「はーい。洗濯してくれたからわかると思うけど結構あると思うのよね」

「大変でしたよ。何回かければ終わるんだって思ってました」

一日一着レベルである姫子の服から好きなコーデを見つけるのは至難の技かもしれない。

「とりあえず、わたしとお母さんは主張が激しい服は嫌いです。色は薄めの方がいいと思います」

「なるほど。そうなると黒とか白?」

「白はダメですよ。なんか白旗で降参してるみたいじゃないですか」

今から戦場に行くんだからね。

「そっかあ……。夢亜ちゃんはどれがいいと思う?」

「んーこの薄い緑のワンピースとかいいと思いますよ。生地もニットであったかいと思いますし」

「これね。あ、でもこれじゃあ下着の輪郭が分かっちゃうかも。結構はっきりしてくるじゃない?」

「たしかに……。そうなるとGパンにしますか?上は暗い赤で、黒いベルトがあると最高だと思います。留め具は金色で」

「それならあるわよ。肩が露出されてるけどいいかな?Gパンは破れてるのと破れてないのどっちがいいと思う?ベルトも探してみるわ」

「んー破れてない方がいいと思います。肩出しするから出しすぎちゃいますよ」

「そうね。夢亜ちゃんセンスある!早速着替えるね」

姫子はGパンとニットを取り出して着る。

「おおー!似合ってますね」

「そ、そう。それならよかったわ。ベルトも見つかったから準備万端ね」

珍しく姫子が恥ずかしがっている。

肩も出してるからなんかやらしい……。

「姫子さんって色気やばいですよね」

姫子が女の人からモテるのも納得できる。

「たしかに色気のことは昔からよく言われるわ。あ、そろそろ行かなくちゃ」

「待ってください!最後に髪の毛整えましょう」

洗面所からブラシを持ってきて姫子の髪をとかす。

めっちゃサラサラじゃん。

髪質もいいから最高じゃん。

「はい。できましたよ」

「ありがとう夢亜ちゃん。なんか魔法がかかったみたい」

「大魔女夢亜様ですよ」

わたしは両手をあげてがーおーっとやる。

「ふふ。とっても可愛い魔女さんね」

姫子は茶化すようにわたしの頭を撫でる。

むう……。

「……時間になりますよ」

時計を見ると集合時間まで二十分を切っている。

「あ!やばい!じゃあ、行ってくるね!」

姫子は小走りで玄関に行く。

「仲直りしたら昼ごはんはそっちで食べてきてください。それと夕食はここで食べませんか?わたし、作っておきます」

三人で食卓を囲んで仲良く食べたい。

姫子もお母さんもそう考えてくれてるといいな。

「そうね、お願い。じゃあ、行ってきます!」

「いってらっしゃい」

姫子に手を振って、扉が閉じられる。

「きっとうまく行くよね」

わたしは一人呟いた。


「覚悟を決めないとね」

今から姫子に会いに行く。

いつぶりだろうか?

連絡すら取り合ってなかったからな。

「きっと大丈夫だよね」

わたしと姫子は仲直りできる。

姫子も同じ気持ち。

そう信じてる。

そう自分に言い聞かせないと手の震えが止まんなくなっちゃうからね。

「……ぐす」

姫子に会えるのか……。

「……会いたかった……」

姫子のことを忘れたことは一日だってないし、これからもそうだと思う。

姫子に会えるのがこんなに嬉しいなんてね。

「化粧直さなくちゃ」

涙目で行くなんてダサすぎるからね。




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