第3話

姫子と約束したから今日はカレーを作りにいく。 

「甘口と辛口どっちが好きなんだろ?」

今はスーパーで食材を仕入れている。

玉ねぎ、お肉、にんじんにじゃがいもはすでにカゴに入っていてあとはルーだけ。

「どっちも買えばいいかな」

資金は姫子が払ってくれるらしいしいいよね。

二人分と書いてあるパックを一つずつカゴに入れてレジに向かう。

「いらっしゃいませ。ポイントカードはありますか?」

「はい」

財布からカードを取り出してトレーに置く。

「ありがとうございます」

手際良く商品をスキャンする店員。

バーコードをスキャンするのって意外と難しいよね。

セルフレジとか結構時間かかっちゃうし。

「合計八百五十円となります。ポイントを使いますか?」

「五十円分あるなら使ってください」

「わかりました。ポイントはあと一万六千五百ポイントとなりました」

「はーい」

カードを受け取って財布から千円札を取り出す。

「お釣りは二百円となります。ありがとうございました」

店員さんの営業スマイルをあとにしかごから商品をエロバックに移す。

このスペースのことなんて言うんだろ?

スーパーによくある会計が終わった後に商品を袋に入れる用のスペース。

便利だよね。

電車に乗るから氷もらっとこ。

ビニール袋に氷を入れてエコバッグに入れる。

「よし。ここから駅まで五分くらいだしちょうどいいくらいかな」

わたしはスーパーを出て駅に向かう。

「そうえばポイントめっちゃあったな」

全額払えばよかったかも。


「お邪魔しまーす」

「夢亜ちゃんいらっしゃい。冷蔵庫に食材入れとくわ」

「あ、ありがとうございます」

姫子にエコバッグを渡してリビングに行く。

「ふぅ……」

ソファーに座ってちょっと休憩。

「あら?夢亜ちゃん楽そうだね。うりゃ」

「わっ!」

戻ってきた姫子がわたしに抱きつく。

「ひ、姫子さんやめてください!」

「え〜いいじゃん。これくらい」

姫子の頬がわたしの頬にあたる。

「スリスリしないでください!」

「ん〜夢亜ちゃんのほっぺ柔らかいね。若いからかな?んちゅ」

「なっ!?」

姫子がわたしの頬にキスをしてくる。

「夢亜ちゃんってほんと可愛い。ねぇ?」

「な、なんですか……」

姫子がわたしのことをソファーに押し倒す。

姫子の綺麗な顔がわたしを真っ直ぐに見つめてくる。

「怒りますよ……?」

「全然怖くないわ。他の子たちもわたしには逆らえないのよ」

他の子ね……。

わたしは姫子の胸ぐらを掴む。

「他の子って?」

「あ……」

姫子がしまったと言う顔をする。

まだ会ってから二日のこと人がどんな生活をしてようがわたしが指摘する権利はないかもしれないけどなんかムカつく。

「ムカつきますよその顔。見てるだけで胸が苦しくなってきます」

「夢亜ちゃん……」

姫子がわたしの頭を撫でる。

「教えてくださいよ。なんでわたしにキスしたんですか?いつも通りに行けるとでも思ったんですか?」

「違うわよ……。わたしはね……」

姫子はソファーに座り直す。

「わたしはあなたのお母さん——香澄を裏切ったのよ」

「お母さんを……?」

それがキスとどんな関係があるの?

「実はね。高校時代、香澄とわたしは付き合ってたのよ」

「え……?」

女同士で……?

しかもお母さんが……!?

「あ、ちょっと引いてる?」

「別に引いてはないですよ。うちのクラスにもいるんで。女同士とか今じゃ普通ですよ。ただこんなに身近にいたとは驚きです」

なんか驚きが強すぎて怒りが冷めた気がする。

まぁ最後まで聞くけど。

「それで?裏切ったとは?」

「えっとね——」


わたしが香澄と付き合い始めたのは高校二年になったから。

最初は普通の恋人みたいに楽しい日々を過ごしてた。

手を繋いだり、キスをしたり、親がいない時にお泊まり会をして燃えたわ。

でもわたしがレズ風俗のアルバイトをしてた頃よ。

レズ風俗のアルバイトをやってることは香澄も知っていたわ。

実際、お客さんとして来てくれたりしてたしね。

変わったのはあの日から。

期末テストが終わったあの日もそこに集まろうとした。

店長さんや他のお客さんと一緒に打ち上げでもしようって香澄と言ってたわ。

でも、わたしはその日行かなかったのよ。

なんかね無性に怖くなったのよ。

元々わたしが告白して付き合ってたからね。

あそこに行ったら香澄には他の子のほうがふさわしいって思っちゃうのよ。

わたしと話してる時より楽しそうだから。

結局その日からアルバイトはやめて香澄とはろくに顔も合わせなかったわ。

それから二週間後くらいかな。

わたし、香織って子を抱いちゃったのよ。

自分でも馬鹿だと思うわ。

あの時は香澄との隙間を埋めたかったのかもしれないわ。

それを知った香澄がなんて言ったと思う?

「あなたっていつもそう」

香澄が冷めた目でわたしを睨んだのを今でも覚えてるわ。


「それから大学に行って就職をしたわ。さらに三年が経って夢亜ちゃんに会ったのよ」

「そんなことが……」

どんなに辛くても他の子を抱くのはいけないことだけど多少共感することはできる。

好きな人ができると妙に不安になっていなくなるとおかしくなっちゃうもんよね。

ん?そしたらなんでお母さんがわたしにアルバイトをさしたんだろ?

まさかお母さん……。

「あの」

「何かしら?」

「わたし、家政婦のアルバイトお母さんから誘われたんですよ。もしかしたらお母さん、姫子さんのこと心配してるんじゃないんでしょうか?」

「香澄が……?そんなことあるわけないよ。だってわたしは……」

「自分で聞かないとわからないじゃないですか!」

「!!」

わたしは姫子に怒鳴る。

「あなたは確かに間違ったことをしたのかもしれない。でも……でも!誰にだってあることですよ!間違えることなんて!一番いけないのはそうやって目を背けてることですよ!」

「夢亜ちゃん……」

「ぶつかりましょうよ!砕けてもいいから!失敗したらまた二人で策でも考えて行きましょうよ!好きだったんですよね?わたしにキスしたのだってお母さんに似てるからじゃないんですか!」

別にわたしは姫子が好きでもない。

不幸になったって仕方ないなって思う面もある。

でもこのままで終わらせるのはわたしがわたしと姫子を許さない。

「これはわたしのためですよ!二人のためじゃない!勘違いしないでください。二人が仲良くないと居心地悪いんですよ。キスしてきた代償を払ってください」

「…………そうね」

姫子がソファーから立ち上がる。

「わたしがちゃんと謝らなくちゃね。香澄に。あの子とっても優しいから我慢してわたしのことを心配して夢亜ちゃんにアルバイトをさして。夢亜ちゃんの言う通りよ全部。結局わたしが本当に好きだったのは香澄なのよ。他の誰でもないわ。夢亜ちゃんには悪いけどね」

そう言って姫子が笑う。

「別にわたしは姫子さんのこと好きじゃないんで」

「あら?冷たいわ。でも、とっても優しいのね」

「それどっちですか?」

「どっちもよ」

「意味わかんない」

おかしくなって二人で笑う。

「あ、そうえばカレー作る予定ですよね?」

「そうだったわね。あ!もうこんな時間!会社に行かないと!ごめん夢亜ちゃん!それ夕飯に回してくれる?じゃあ行ってきます!」

「あ、ルーの辛さ………行っちゃった」

わたしの好きな辛口でいいかな?

「んー!なんかスッキリしたかも」

何にも解決してないけど、姫子のことが少しはわかった気がする。

「さて、お掃除しちゃいますか!」

家政婦二日目!

今日も一日頑張ります!





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