第19話:なぜ人は挫折するのか ②

これはどの国でも挙げられるが、“バランス”に対する認識が歪んでいる印象を受ける。


 例えば、基本的なPC作業をお願いしたときに“Aさんは○○も出来るが、Bさんは○○しか出来ない”という個別評価におけるバイアスがどこかで潜在的に働くことも十分に考えられる。


 しかし、このバイアスを表面化させてしまうと、仕事が出来るAさんに仕事が集中し、仕事が出来ないBさんには仕事が回らなくなるだけでなく、場合によっては配置転換や他部署もしくは子会社などのグループ企業への異動などその場から排除しようとする動きが出てきてしまう。


 もちろん、本人の評価に基づいて異動等を決定しているのだろうが、問題は正当な業務評価・人事評価・個別社員評価などの公的書類に基づいて適切に判断されているかだ。


 その理由として、母数は多くないが、上司が故意に特定の社員の評価を下げて、その上司を師事している社員も上司に協力する形で同じ事をするため、自動的に個人の総合評価が悪いと判断されて、異動の対象になることや人事課など人事権を持っている役職者と繋がって、良い人材を自分の部署などに異動させる、師事している部下を異動させないように囲い込みをするなど自分の居心地の良い場所を作ろうとする人も増加しているように感じる。


 私はこのような背景に2つの“リスク”が挙げられると思っている。


 まず第1に“リスクアセスメント”だ。


 これは一般的にはマーケティングなどで使われる用語だが、これは人材育成にも当てはめることが出来る。


 例えば、全社員を評価対象にして個人評価を行い、その中で評価が低い社員や職務怠慢が見受けられる社員などを不当解雇するもしくは左遷などを行い、当該社員から直接“退職”という言葉を言わせることで、社会からもしくは取引先などからの信頼を失わないようにする、自己防衛の観点から会社に不利益が被る可能性を排除する事が必要になると判断し、会社から追放するなど会社として成り立たせるための判断として考えられてしまう。


 そのため、表向きは自己都合であっても裏を返してみると不当解雇やパワーハラスメントを含んだ優越的立場を利用した解雇や雇い止め、同業他社への転職の制限など当該社員に対して自分たちの身に危害を加えられないように行動を制限することで、自分たちが行った行為を正当化し、その行為が時効を迎えるまで自らがコントロールしようとする。


 次に“リスクマネジメント”だ。


これは多くの方が知っている用語だが、人材育成の観点から見ると少し違っている。


 なぜなら、一般的には倒産や債務不履行など会社が経営困難にならないように経費を見直すことや事業内容の不採算部分を再考するなど自分たちが存続するために必要な事を判断することを指す。


しかし、人材育成の場合は“バランスの取れた人材を確保する”という一定のレベルが存在する。そして、その人材を最大の能力を発揮する人材に育て上げることで会社に貢献出来ると考えるのだ。


 そして、その人の費用対効果を見て、その人材が提示した給与(給料)と相対的な仕事をしているのかを判断し、その人がどの場所が適材適所なのかを判断する事も経営者に求められる部分だろう。


 ただ、この部分でトラブルが起きることもしばしばだ。


 例えば、仕事が出来ない人にとっては仕事をいただいているというだけでありがたい、感謝しているという人が多いのだが、会社としては“そういう人を早期に解雇してしまいたい”、“なんでこんな人を採用したのだろう”とその人を排除する動きを見せることになる。


 今挙げた2つのリスクは経営者からしても、役職者などからしても、直接関与したくないことであり、可能なら回避したいという心理を持っている人が多く、これはごく一部だが、これらを水面下で実行している企業も少なくない。


今は企業にとっても“良い人材の採用”と“企業の採用実績の向上”など“自分たちの会社に良い人材を確保して、会社を成長させたい”と思っている企業は多い。しかし、このような企業価値観が社員などの深刻な挫折を招くだけではなく、求職者たちの挫折を招くことにも繋がっていくのだ。


 そのため、就職活動が学生を含めた若年層にとっての1つの山場とも言われるほど、過酷な現状を表しているのだ。


 私はまずこの状況を変えないと、労働意欲などの低下や人流の偏向化が進み、特定業種・職種などにおける人材の形骸化がさらに進むことにも繋がると思う。

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