第20話

「ボス。連れて来やした」


ゴーカツ商会。

王都を中心として商いを行う中堅の商会だ。

その評判はすこぶる悪く、商会主のゴーカツは金儲けの為なら何でもすると言われている。


俺はそこと商売するべく、商会を訪ねていた。


「そいつか?」


厳つい髭面の親父が俺を睨みつける。

こいつが主のゴーカツだ。

奴の背後にはガタイのいい男が二人ほど立っている。


ここはゴーカツ商会の所有する建物の一室だった。

俺は末端に金儲けがあると持ち掛け、聖水の実演を見せてここまで案内させる事に成功している。


「初めまして、ゴーカツさん。俺はメシェアと申します。そしてこれが――」


今の俺は中年の姿をしている。

当然魔法による物だ。


俺は柔和な笑みのまま、彼の座る机の前に大きめの木箱を置く。

中身は俺産聖水が200本ほど入っていた。


「これが本当に全部聖水なのか?」


ゴーカツは木箱の蓋を開け、中から一本の瓶を取り出す。

中には液体が入っており、それを疑わし気な目で奴は睨みつけた。


「どうぞ、数本ほど使ってお試しください」


「へっ。触れ込みじゃあ、欠損すら回復する上物らしいが……おい!ゴンズ!」


「へい!」


ゴンズと言うのは、俺をゴーカツに紹介した男だ。

この商売が上手く行けば上に上がれると思ったのか、奴はほいほいと俺を橋渡ししてくれている。


「テメーが連れて来た客の商品だ。テメーが身をもって証明するのが筋だろ?」


「ええ、まあそりゃそ――ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ゴンズが返事を仕切るよりも早く、ゴーカツが指を鳴らす。

次の瞬間、ゴンズの腕が飛んだ。


ゴーカツの背後に控えていた男が抜剣して腕を切り落としたのだ


その様を見て、予想通りロクデナシで助かると俺は心の中でほくそ笑んだ。

こいつは絶対俺との契約を反故にしようとしてくれるだろう。


それこそが狙いだ。

俺は自分に攻撃を仕掛けて来た相手以外、出来る限り攻撃しない様にしているからな。

やりたい放題は流石に気が引けるから。


なのでこいつがふざけた真似をしてくれるなら、此方に都合よく扱えるというもの。


「があぁぁぁぁぁ!腕がぁ!!」


「ぎゃあぎゃあ喚くな!さっさと飲め!」


喚くゴンズの口に、ゴーカツは手にしていたポーションを突っ込んだ。

すると奴の腕の傷口が塞がって行き、流れていた血も止まる。

ついで切断面がもごもごと動き、膨れ上がる様にその面積を増やしていく。


やがて奴の腕は元の形へと戻る。


「腕は動かせるか?」


「か……感覚はあります。でも、上手く動かせません」


ゴーカツの質問に、ゴンズは脂汗を浮かべながら答えた。

奴が飲んだ聖水は水で薄めているからな。

再生はしても、完全という訳にはいかない。


今の状態から元に戻すには、そのままだとかなり頑張ってリハビリする必要があるだろう。


「もう一本飲ませれば、完全な再生が完了するかと」


「ふむ……」


ゴーカツが木箱から聖水をもう一本取り出し、再びゴンズの口に突っ込む。

藻掻いていたさっきはともかく、今回は突っ込む必要なくね?

そんな突っ込み――別にダジャレではない――をしたくなったが、俺はぐっと堪えた。


「どうだ」


「う、動きやす」


そう言って、ゴンズが腕をぶんぶんと振り回す。

その様子を見てゴーカツが満足げに頷いた。


「いい品だ。本当にこれ程の上物を、一本銀貨一枚でいいのか?」


ゴーカツとはこの聖水を、一本銀貨十五枚で市場に流すという契約を結ぶために来ている。

その際の俺の利益は、銀貨一枚の予定だ。


「私は教会が嫌いでして、彼らへの嫌がらせを優先するためですから」


教会産の聖水より効果の強いこれを、半額で大量に売り出す。

さぞやこれまで暴利をむさぼって来た教会は大慌てする事だろう。


え?

儲けが一本銀貨一枚じゃ、たいした金儲けにならない?


それなら問題ない。

一本銀貨一枚は、あくまでもスムーズに契約を結ぶための物だからだ。

ゴーカツが晴れて裏切った暁には、利益は全て俺の懐に入る予定である。


それどころか、追加で奴の全財産も没収させて貰うしな。

裏切りの代償は高くつく。

それが世の常である。


「ふん。物好きな奴だ。いいだろう。全部買ってやるから持って来い」


「では、此方の契約書にお目通しお願いします」


持ってきた契約書を提示する。

内容はざっくり言うと、聖水を銀貨十五枚で販売する事。

そして一本当たりの此方の報酬が、銀貨一枚と記されている。


奴はそれに目を通し、インクとペンでサインして魔法処理された印を押す。


これで契約成立だ。

もちろんこれは只の契約書ではない。

内容に違反すれば、その瞬間ペインデビル苦痛の悪魔が違反者に憑り付く様に細工しておいた。


騎士達に取り付けてる例のアレである。


「では。残りのも持ってまいりますので、よろしくお願いします」


「ああ、いい契約だった。ゴンズ、金を用意しておけ。メシェアとの窓口はお前に任せる」


「へい!お任せください!」


ゴーカツはいい金づるが出来たと上機嫌。


そして俺は金を稼ぐルートを手に入れる。


正にwin-winだ。


ま、最終的に俺が総取りするわけだが……


暫く甘い夢でもみてな。

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