第15話

教会の作るポーションは、骨に達する傷や軽い骨折を治癒する程度の効果だ。

一般的な神聖魔法の使い手がかける、低級の回復魔法とほぼ同じと考えていいだろう。


一方、俺の作った最高級品質のポーションはというと――


全身10か所程を複雑骨折→一瞬で完治。

全身の7割を火傷→一瞬で完治。

腕を切り落とす→一瞬で新しいのが生えて来る――切り落とした腕はそのまま。


と言った感じだ。

恐らくだが、死んでさえいなければどんな怪我でも一瞬で完治するっぽい。

これなら奇跡の霊薬エリクサーと言っても通りそうである。


「ふむ……」


最初はポーションをガンガン販売する予定だったが、ここまで強力な物を流通させて大丈夫だろうか?


明らかに市販されている物とレベルが違い過ぎる。

出来れば、もう少しマイルドな効果の方が望ましい。


「水で薄めてみようかしら……」


水で薄めればきっと効果も下がる筈だ。

取り敢えず倍に水増しして、その効果を確かめてみる事にする。


山に行った際に結構な数の草を抜いて来ているので、素材を新たに取りに行く必要は無かった。

素材を壺に突っ込んで、再び精製でポーションを作る。

そして出来た物を空の花瓶の中に注ぎ、丁度倍になる様に水を足して薄めた。


「最後に魔法で中身をかき混ぜて……と」


混ぜた物を、一本分の容量ずつ小さなお椀に移す。

目分量ではあるが、チート持ちの俺はそれで完璧な量を測る事が出来るので誤差はない。


「さて、第二ラウンドを開始しましょうか」


「ひぃぃぃぃ……」


俺の言葉に騎士達が悲鳴を上げるが気にしない。


同じ様に試した結果。

全身10か所程を複雑骨折→8割がた回復したが、回復までに少し時間がかかる。

全身の7割を火傷→これも複雑骨折と同じ感じ。

腕を切り落とす→一応腕は生えて来たが、障害が発生する模様。低位の魔法による欠損回復と同じ様な効果になった。


「まあこれ位が丁度いいわね」


それでもまだ、通常のポーションよりずっと強力ではある。

どうも教会が販売している一般的な物は、あまり品質が良くない様だ。

何故ここまで差が出るのか謎でしょうがない。


まさかとは思うけど、教会も水で薄めまくって販売してないよな?


もしそうだとしたら、どれだけケチなんだよって話だ。

ほぼ0に近い原価を更にケチるとか、業突く張りにも程がある。


いやまあ、回復魔法という手間がかかってるので正確には0って事もない訳だが……まあそれでもやっぱボッタクリが過ぎる。


「さて、後は誰に流通を任せるかね」


ポーションを商品として卸すには、流通を担ってくれる業者が必要だ。

その際、相手は出来る限り悪徳な者が望ましい。

俺との契約を平気で裏切る様な、そんな糞野郎が理想だ。


どこまでが良くてどこからがアウトになるのか分からない以上、報復対象以外に、俺は自分から何かをしかける様な真似はしない事に心がけている。

だが相手が此方に牙を剥くのなら話は別だ。


そう、それは正当防衛。

だから神様だってきっと許容してくれるはずである。


……まあ余程の事が無い限りセーフな気もするが、気を付けるに越した事はない。


取り敢えず、報復対象以外に何かしたい時は、相手から喧嘩を売らせて制圧する感じでやって行こうと思う。


専守防衛最高!


「お嬢様!」


ドアが唐突に開け放たれ――まあ気配には気づいていたが――ミウが血相を変えて部屋に飛び込んで来た。

ノックも無しに入って来たのは侍女としてアレだが、乱れた髪や衣服を見る限り何かあった様なので、不問としておく。


「どうかしたのかしら?そう言えば……弟さん達が見当たらないわね?」


「弟達が……弟達が……婦長に捕まってしまったんです!」


捕まった?


婦長と言うのは、この屋敷の侍女達を統括している人間だ。

まだ顔を合わせてはいないが、何故そいつが俺の持ち込んだ猫を捕まえるんだ?


「どういう事かしら?」


「勝手に動物を持ち込むなって。それで二人を捨てるからって、連れて行かれちゃったんです。私……必死に取り返そうとしたんですけど、他の人達に邪魔されて……」


服装や髪が乱れているのはそのためか。


「私のペットだって言ったのよね?」


「言いました。でも、そんな訳がないって。報告になかったから嘘を吐くなって」


ああ。

まあ途中で拾った形になるから、報告が行ってないのは仕方がない事だ。

出迎え組に混ざってなかったはずだから、俺が持ち込んだのを見てなかったんだろう。


しかし……アレーヌの名が出たにも拘らず、確認もしに来ないとはな。

どうやらここでも相当舐められている様だ。


だがこちらは侯爵令嬢。

どれだけ冷遇されていようとも、分館の婦長如きが軽んじて良い相手ではない。

猫も取り返さなければならないし、それをきっちり教え込む意味も込めて、うちの侍女にした分ぐらいは一発かましてやるとしよう。


「婦長を連れて来なさい」


実験の影響で、未だ軽く放心状態だった騎士達に命じる。

休ませてやる優しさを彼らにかけるつもりは更々ない。


「まあ、第三ラウンドがお望みならそこで呆けていてもかまわないわよ?」


「行ってまいります!」


「すぐに!」


脅しをかけると、彼らはどたどたと慌てて部屋から出て行く。

あの様子なら直ぐに見つけて連れて来るだろう。


取り敢えず、魔法で周囲の様子をサーチする。

ミウの弟達がどこにいるか確認する為だ。


「外に放り出されているみたいね」


二人は屋敷の塀の外で固まっている。

危害は加えられていない様なので、ただ純粋に外に捨てられただけの様だ。


外で変な奴に絡まれたらあれなので、転移魔法でさっさと回収に向かう。


「にゃぁぁ」


「にゃん!」


俺を見たカムイとカンが飛びついて来る。

二人とも体をプルプルと震わせていた。


俺が外に放り出されても――まあないけど――何しやがるって憤慨する程度だが、二人はまだ幼い子供だ。

きっと怖かったのだろう。


「ごめんね!お姉ちゃんがしっかりしてないばっかりに!怖い目にあわせてごめんね!」


部屋に戻ると、直ぐにミウが二人を抱きしめる。

その姿を見て思う。

取り敢えず、婦長には強めにお仕置きしてやろう、と。

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