第14話

神聖魔法――それは神の寵愛を受けた者だけが扱える特殊な魔法である。

そのため、ただ魔法の修練をするだけでは決して習得する事はできない。


――神の寵愛を受ける方法はただ一つ。


それは神の涙と呼ばれる奇跡の石に、魔法の素質を持つ者が無垢な祈りを捧げる事だ。

まあ無垢と言っても、余程の邪心――世界を滅ぼそうなどといった極端な思想――の持ち主でもなければ概ね神は祈りに答えてくれる訳だが。

つまり極端な話、魔法を扱える者ならば、基本的に誰でも扱える事が出来る力な訳だ。


――本来ならば、ではあるが。


神の涙はかつて厄災に見舞われた人類を哀れんだ神が、それを乗り越えるための力として地上に齎した物だった。

そして人類はその神の福音をもって、厄災を乗り越えている。

もう何百年も前の話だ。


まあここまではいい。

問題はそんな神の石が、人々の信仰の対象となってしまった事だった。

実際神が齎し、世界を未曽有の危機から救ってくれた訳だからな。

その流れは必然とも言えるだろう。


結果、神の涙はかなりの数が世界中にばらまかれていたが、その殆どが宗教の信仰対象として教会などにかき集められてしまっている。

それ以外でも、王侯貴族が権威の象徴として集めたりしている国などもあり、一般人が無償で神聖な力を身につける事は、現在殆どの国で出来ない様になっていた。


――これがこのアクセル帝国の、ポーションの製造販売を教会が一手に担っている理由だ。


教会に許可を得て神聖魔法を習得するには、ある制約の魔法が課せられる――法ではなく、教会側が出す条件――事になっている。

その内容は至ってシンプル。

それは親類友人の緊急時の救護活動以外、教会の許可なしに神聖魔法の使用を禁じるという物だった。


当然、ポーションの製作に魔法を使うのはその緊急に該当しない。

この制約があるため、教会が実質的にポーション販売を独占する形となっているのだ。


「酷いわね」


目の前のパネルに映る、ポーション制作に必要な素材を見て眉を顰める。


制作素材は草+水。

これに回復魔法を加える事でポーションは完成する。

草の部分をタッチして詳細を確認すると、地面から直接生えている物なら何でもいいと出ていた。


原材料は水と只の雑草なので――原価はほぼ0と考えていいだろう。


原価ほぼ0のポーションを、あの値段で売ってるとか……


教会で販売される怪我などの回復ポーションは、1本銀貨30枚だ。

この国の一般的な平民4人家族が1月にかかる生活費は銀貨40枚程度――納める税は別――だと言われているので、ポーションは約1月分の生活費に匹敵する価格という事になる。

暴利もいい所である。


「腹を立てていてもしょうがないわね。取り敢えず作ってみようかしら」


雑草を騎士達に取ってこさせようとしたが、止めておいた。

この屋敷はキチンと管理されている様なので、庭に雑草などは生えていない。

そうなると外に行く事になるのだが、街も石畳などでしっかり舗装されているため、下手をしたら遠くの公園まで向かう必要が出て来る。


そうなると無駄に時間がかかってしまうので、直接自分で取りに行った方が早い。

転移魔法を使えばあっという間だ。


「ちょっと出かけるわ」


そう一言伝えてから、俺は転移魔法で近場の森へと移動する。

まあ雑草を適当に引っこ抜いて戻るだけなので、態々声掛けはする必要なかったような気もするが……実際、物の30秒とかからず雑草の収取は終わったし。


「あ、お帰りなさいませ。お嬢様」


ミウの言葉に軽く頷いて返し、早速精製を行ってみる。

壺に草を突っ込むと、パネルに表示されている草の部分に×6の数字が出て来た。

恐らく6個分の材料が投入されたと示しているのだろう。


俺は部屋の中にある水差しを取って、今度は壺に水を入れる。

此方も×6になるまで入れて置く。


量が違う場合は、自動的に少ない方を基準に生成される。

その場合、余った素材は消滅してしまう仕様だ。

まあ水や雑草が消えたからなんだって話ではあるのだが、まあ何となく合わせておいた。


「後は回復魔法をかけるだけね」


試しに壺にヒールをかけて見た。

6個作るので6回かけるのかと思ったが、何故か一回かけただけで精製は完了してしまう。

どうやら個数分魔法をかける必要は無い様だ。


――パネルには、最高級ポーション×6と表示されていた。


最高級か……


教会のポーションは深い切り傷やちょっとした骨折も治せるらしいが、このポーションはどの程度の効果があるのか?

その違いを実際に使って試してみる事にする。

騎士達を使って。


「ミウ、弟達を連れてちょっと10分ほど庭でも散歩してらっしゃい」


そこそこショッキングなシーンになるので、彼女達には部屋から出ていく様命じる。

何せこれから、騎士達の腕をへし折ったり裂いたりする訳だからな。


「はい、わかりました」


ミウ達が部屋から出て言った所で結界を二種類張る。

一つは、外に声が漏れないようにするための消音の結界。

もう一つは、床に被膜を張る防護の結界である。


床の絨毯に血が付いたら掃除が大変だからな。

魔法は便利だが、物に付いた染みや汚れを綺麗にする様な物はないのだ。


「さて……ポーションのテストだけど……」


俺の視線を受け、これから何が起こるのか本能的に察知した騎士達の顔が青ざめていく。

だが同情する気分には全くなれない。

命令とは言え、こいつらは小さな子供を平然と焼き殺そうとした糞共だからな。


命があるだけ有難く思え。


「じゃあまず、検証のために貴方達の骨をへし折るわね」


俺はそう告げると、騎士達に優しく微笑んだ。

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