第79話 凛


 最近、小百合の様子がおかしい。


 元々ボーッとするタイプではあるのだが、最近は輪にかけて上の空だ。

 自分の世界に没頭する性格だから、最初は本の中の世界に没入してるのかと思っていたが、どうもそんな感じではない。

 何か悩んでるなと気付くには、そこまで時間は掛からなかった。

 小百合は友達だ。だから、悩んでいる事があるなら、全力で協力してやりたい。

 でも、小百合のその悩みは、アタシにとって……



 「………凛ちゃんはさ、"叶わぬ恋"って、あると思う?」



 小百合の口から出た、衝撃的な言葉。その悩みは、正に今アタシが向き合っているものだ。

 それに、小百合の"叶わぬ恋"と言うのは、多分………

 

 「……小説の話?」


 僅かな望みをかけて小百合にそう聞くが、彼女はゆっくりと首を横に振った。



 「………ううん、私の話」



 心臓が、キュッと締め付けられる。


 小百合の答えに、アタシは察してしまう。

 ああ、こいつも三笠の事……


 「ご、ごめんね?やっぱ聞いてて気分の良い話じゃ無いよね……」


 「え?あ、いや、気にすんなって」


 難しい顔をしていたのだろう。小百合は遠慮がちにそう言ってくる。

 慌てて私も表情を戻した。


 「…………」


 「…………」


 互いに無言の時間が流れる。アタシとしても頭が整理出来ていない。

 せっかく小百合が悩みを打ち明けてくれたんだ。何か言葉を言わなきゃいけないのに、それ以上の感情が、アタシの頭の中を混乱させていた。


 「……好きな人、出来たの?」


 ああ、自分の性格の悪さが嫌になる。小百合が誰を好きな事なんて分かりきっているのに、探る様な言葉を掛けてしまった。


 「…………うん」


 これでもかと言うくらい顔を真っ赤にして、小百合は小さく頷く。


 「……へぇ、いつから好きなの?」


 「え、えっとね?意識し始めたのは去年の2学期くらいかな……」


 そう思い出す様に語る小百合の表情を、アタシはまともに見れない。薄らと頬を赤らめて、でも嬉しそうに小百合は語る。

 ……なんだよ、絶対好きじゃん。なんで三笠なんだよ。叶恵だけじゃねーのかよ……。他の女なら良かったのかもしれない。ちゃんと恋敵として割り切れる。でも、なんで……



 「えへへ、それでね?私が落ち込んだりしたらね?心配そうにずっと寄り添ってくれるの」



 なんで、小百合も三笠の事好きになってんだよ。

 

 「………そっか。本当に好きなんだな。そいつの事」


 「……うん。好き……」


 こんな事になるなら、一人ぼっちのままで良かったのかもしれない。

 アタシの心はぐちゃぐちゃのまま。その後は、小百合と何を話したのかあまり覚えていない。

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幼馴染ラバーズ 浅井誠 @kingkongman

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