第73話 幕間1 洋介


 「……さて、何をしてくれるんだ?」


 俺の部屋で椅子に座りながら、目の前で床にこじんまりと正座をしている奴に対し、挑発する様にそう言う。


 「……えっと、何をして欲しいでしょうか?」


 正座をしながら、媚びる様な声でそう聞いてくる叶恵。

 篠塚さんに誘われて文芸部に入った事で、なあなあになり掛けていたが、忘れてはいけない。


 まだ叶恵から、テスト勉強の"対価"を貰ってないのだ。

  

 「ほう?、何も考えてないと?」


 「ら、来月のお小遣いまで厳しいので、待っていただけないでしょうか……?」


 「テストがある事は分かってたろ。なんでそれまでに準備してねーんだ」


 「……むぅ……」


 言い訳をしてくる叶恵に対しそう返すと、少しむくれた顔になる。

 別にそこまで対価に執着はしていないが、ここで見逃しては、ただの甘やかしになってしまう。

 "洋介が居るから、自分じゃ勉強しなくていいや"とはなってほしく無いのだが……


 「……はぁ、別に、お金が掛かる事じゃなくても良いんだぞ?」


 「じゃあ、私の体が対価と言うのは?」


 「だから、なんでそうなんだよ……」


 馬鹿もここまで来ると頭が痛くなる。俺がそれを許すと思っているのか。

 

 「お金がないんですー。私の体でダメなら、何が良いのよ!!」


 「声でけぇよ!バカ!」


 逆ギレしながら親に聞かれたら勘違い間違いなしの言葉を叶恵は叫ぶ。

 自分の身体に自信があるのは結構な事だが、貞操はちゃんと持っていてくれ。


 「じゃあ、何をしたら対価になんのよ?」


 すると、ぶすーっとむくれて、叶恵はふてぶてしくそう聞いてくる。

 ……逆ギレもここまで来ると清々しいな……

 そして、俺はある事を思い出した。


 「……そうだな。……3日後、両親がまた出張するんだが……」


 その時はまた自分で夜ご飯を用意しなければならない。今回はそれを利用させてもらおう。


 「お、まじ?、じゃあまた洋介ん家でご飯食べ……「お前が作れ」


 「……え?」


 叶恵の言葉に被せる様に俺がそう言うと、キョトンとした顔でそう返して来た。


 「だから、晩飯。叶恵が作ってくれ。材料はウチのもん使って良いから」


 これなら金もかからないし、対価にもなるだろう。それに、いつもは俺が作っているんだから、たまには叶恵が作るご飯も食べてみたいと言うのもあった。


 「い、いいけど、そんなに私の料理食べたいの?」


 叶恵にとっては予想外の提案だったのか、かなりぎこちない感じでそんな事を聞いてくる。



 「いつも俺が作ってんじゃん。偶にはお前のも食べたい」



 「……へへっ、分かった」


 俺がそう言うと叶恵は軽く笑って、照れながらそう返して来た。

 まあ、気持ちは分かる。料理を期待されると言うのは、作る側からしたらとてつもなく嬉しいのだ。


 「じゃあ、リクエストとかありますー?」


 満面の笑みで、リクエストを聞いてくる叶恵。

 ……そうだな、この前はハンバーグだったし、なるべく簡単なやつにしといてやろう。



 「うーん、カレーとかどうだ?」



 

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