第69話 洋介
駅にほど近い安価が売りのファミリーレストラン。そこには1人の男子高校生と、3人の女子高生の姿があった。
テスト後に打ち上げをやろうと言い出したのは、意外にも篠塚さんだった。文芸部室で勉強した最後の日、"みんなで頑張ったから"と、互いの労いも込めてと言う事で彼女からそんな提案をして来たのだ。
一日だけしか参加しなかった三島さんは来なかったが、叶恵と横山さんは快く参加してくれた。
テスト後の打ち上げなんて初めてだ。
「篠塚さんは、テストどうだった?」
頼んだパスタを巻きながら、テーブル席の対角に居る篠塚さんに、俺はそう聞く。
「んむんむ……ごくん。う、うん。悪くなかったと思う。……数学は微妙だけど……」
対して篠塚さんはサラダを頬張りながらそう返してくる。
小さな体で一生懸命食べるその姿は、やはり小動物みたいだ。
「まあ、篠塚さんは国語と地歴はいつもクラストップだからね。多少数学が悪くても大丈夫なんじゃない?」
篠塚さんは、1年生の頃からこの二つの教科は常にトップだった。好きこそものの上手なれとはよく言ったものだが、彼女の趣味趣向がそのまま成績に出ている感じなのだ。
「へぇー、やっぱ小百合って、その教科が得意なんだな」
すると、俺の対面に座った横山さんが、頼んだハンバーグをナイフで切りながら感心した様にそう言ってくる。
「そ、そんなに得意な意識ないけどなぁ……」
篠塚さんは少し困った様に笑ってそう返して来た。
まあ、趣味の延長線上でいい点数が取れていると言った感じなので、あまり勉強をしてると言う意識が無いのだろう。
だが逆に苦手な数学は、彼女が一年生の時は平均より少し下くらいの点数だった。
「今も数学は苦手なの?」
気になった俺は、そんな事を聞いてみる。すると、篠塚さんは申し訳なさそうな顔つきになった。
「れ、歴史とか国語の勉強しちゃうと、熱中し過ぎて他の教科が……」
なるほど、得手不得手がハッキリとしてるのは、一年生の頃から変わってないらしい。
しかし、それは悪い事ではないと、俺は思っている。
「まあ、数学も出来ることに越した事はないけど、誰にも負けない教科があるって言うのは強みだからね」
満遍なく出来ると言うのも悪くはないが、誰にも負けないと言う強みがあると言うのは、それだけで魅力的に映る。
実際、俺が篠塚さんに抱く感想は、カッコいいと言うものだった。
「あ、ありがとう……」
対して篠塚さんは、顔を真っ赤にしてそう返して来た。
照れているのだろう。シャイな部分は相変わらずな様だ。
「将来は文系の大学とか目指してるの?」
「ま、まだ分からないけど、そのつもりだよ?」
俺が続けて篠塚さんにそう聞くと、まだ決めてないのか迷った口調で彼女はそう返してくる。
だがこの時期で大学の事を考えてるのも、立派である。
「……さて、お前は?」
そして俺は次に、自分の隣の席に座っている、やけに大人しい幼馴染に対してそう聞く。
「………わ、悪くない……と思う」
グラスに入ったメロンソーダを、焦る様にストローで啜りながら、叶恵はそう返して来た。
叶恵は、ドリンクバーだけしか頼んでいない。もうかれこれテストの1週間前から金欠なのだ。ついさっきだって俺のパスタと、横山さんのハンバーグを恨めしそうにガン見していた。
「……いつも言ってるよな?それ」
テスト後の叶恵は、いつもそんな様な言葉を返してくる。
取り敢えず赤点は回避しているので、とやかく言うつもりも無いが、これでは将来が心配だ。
「べ、勉強だけが全てじゃないし……」
「それは勉強が出来るやつが言うセリフだよ」
「……ぐあっ!!」
なんとか言い訳をしようとする叶恵に、大正論パンチをお見舞いすると、大ダメージが入ったのか、変な断末魔を上げて机に突っ伏した。
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