第68話 凛


 「はい、終了。後ろから答案用紙を回収して下さい」


 テストが終わった。2日間、全力は出したと思うが、手応えとしては微妙と言った感じだ。

 分かったところもいっぱいあったし、分からないところもいっぱいあった。


 「あ、あの、……よ、横山さん、解答用紙……」


 「あ?、ああ、悪い」


 そんな感想を抱いてボーッとしていると、後ろの席の奴からおずおずと声をかけられ、解答用紙を渡される。

 アタシはそれを受け取って前の席の奴に渡す。これで終わったのかと、何処か清々しい気分になった。

 今日はテスト最終日の午前授業なので、この後は勉強もしなくていいし、弟の翔太の迎えも行かなくて良いのでやりたい放題だ。




 「お疲れ、横山さん」


 HRが終わると、真っ先に三笠に話しかけられる。

 やっぱり三笠はこの2日間も変わった様子は無く、いつも通りな様子でテストにも臨んでいた。

 

 「お疲れ。三笠はどうだった?テストの手応え」


 「うーん、いつも通りかな?そんな悪い点数じゃ無いと思うけど……」


 やはり、テストが終わっても三笠の態度はそのままだ。寧ろテストなんてどうでも良いと言う風にも見える。

 

 「横山さんはどうだった?」


 すると、今度は三笠からそんな事を聞かれた。


 「アタシは……分かんないや」


 苦笑いになってそう言うと、三笠は首を傾げた。


 「分かんない?」


 「出来た教科もあったし、出来ない教科もあった。まあ、ビミョーってところだ」


 アタシが困った様に笑ってそう言うと、三笠も困った様な表情になった。


 「……そっか、まあ、勉強会でも一番頑張ってたのは横山さんだったからね。そんなに悪い点数にはなんないと思うよ?」


 「ははっ、その言葉、テスト前に聞きたかったな」


 「あー、配慮が足りて無い様で、申し訳ありませんでした」


 心が軽くなったからか、この様な軽口も飛ばせる様になっていた。

 ……やっぱり三笠は優しい。あの勉強会でも、ただ勉強を教えるだけでなく、アタシのことをちゃんと見ていてくれた様だ。


 「それで、この後の"打ち上げ"、横山さんも行くでしょ?」


 すると、三笠の口からそんな言葉が出て来た。


 「ああ、もちろん」


 アタシは軽く頷いてそう返す。打ち上げは、今回勉強したアタシと三笠、叶恵、小百合の4人で行こうと言うものだった。

 叶恵が初日だけ来た三島さんも誘ったみたいだが、彼女は断ったらしい。


 「そんな高いところはよしてくれよ?アタシはそんな金無いんだ」


 「大丈夫。もっと金が無い奴が居るから」


 アタシが冗談っぽくそう言うと、三笠も冗談っぽく返して来た。

 雰囲気でなんとなく、叶恵の事だと分かった。


 「それに、アイツには報酬を貰わないといけないからね」


 「報酬?」


 続けて出た三笠の報酬と言う言葉に、アタシは首を傾げる。


 「アイツの勉強はテストになる度に毎回見てるからね。いつもその対価ぐらいは貰ってるんだよ」


 困った様に笑ってそう言う三笠。本当に嫌がっている素振りは無く、しょうがないなと言った、面倒見の良い彼らしい表情だった。


 だが、アタシにはその表情がなんだか気に入らなかった。

 

 「……ふーん、じゃあ、アタシもその対価とやらを払わなきゃいけないな。お前に勉強を教えてもらったし」


 そんなモヤモヤした感情を誤魔化す様に、冗談めいてアタシはそう言い放った。

 

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