第66話 凛


 遂にテスト当日、アタシは気持ち早めに出て、教室の扉を開けた。

 まだ朝は早いのだが、いつもより人が多い様に感じる。恐らくテスト当日だからだろう。

 テストは今日明日と2日間。出来る限りの事はやったと思う。

 小百合と三笠に念を押されたので、睡眠もバッチリだ。

 たかがテストでこんなに緊張するのは初めてだ。緩み切ったいつもの教室とは違う、何処か張り詰めた様な雰囲気の中、アタシは自分の席についた。


 「おはよ、横山さん。ちゃんと寝た?」


 すると、三笠がアタシに話しかけて来た。こんな雰囲気の中でも三笠はいつも通りで、緊張など全くしていない様子だ。


 「大丈夫だって、ちゃんと寝たよ」


 「そりゃ良かった。篠塚さんから、朝会ったらいの一番に聞く様頼まれてたからね」


 「ははっ、お前も小百合も、心配し過ぎだっつーの」


 そんな三笠と接していると、自然と肩の力が抜けた。

 多分アタシが緊張しないために、三笠は敢えていつも通りに話しかけて来たのだろう。

 本当にどこまで行ってもお人好しだ。


 「三笠は大丈夫なのか?テスト期間はほとんどアタシと叶恵の勉強を見てただろ?」


 少し心が軽くなったアタシは、三笠にそんな事を聞く。文芸部室では、殆ど自分の勉強をせずにアタシと叶恵に勉強を教えていたので、少し心配だった。


 「うーん、あまり心配ないと思うけどな。元々テスト勉強はあまりしないし、毎回そんなテストに力を入れてるわけじゃ無いしね」


 軽く笑って、三笠はそう返してくる。どうやら表情を見る限り、心配無さそうだ。


 「本気でやっても良いんだけど、別に一番を目指してるわけじゃ無いしね」


 「はっ、相変わらず委員長とは思えねー発言だな」


 やっぱりこの男は面白い。今までクラス委員や、クラスの中心人物になる様な人間は自己顕示欲と、過剰に対抗意識の強いやつばかりだと思っていたが、三笠はいつでも自然体で、自分の中で明確な答えを持っている人間に思えた。

 本当に個性のある人間というのは、こう言う奴のことを指すのだろう。

 基本、周りの目が気になるアタシとは大違いだ。


 「もちろん、テストで良い点数を取るのは大事だよ?でも、それだけしか見えてないのは、俺の中では違うかな?」


 「……随分と、大人みたいな事言うな?」


 「残念。横山さんと同じ高校生です」


 こう言う冗談も、会った時よりかは増えている様に感じた。

 元々こう言う、お茶目な性格なのだろう。アタシとしてもこっちの三笠の方が好きだ。


 _______ガラッ_____


 すると、いつもの様に教室に担任が入って来た。

 それを確認すると、三笠はアタシの席を離れる。

 

 「じゃあ、がんばってね、横山さん」


 「ああ、そっちもな」


 最後、それだけ言葉を交わすと、三笠は自分の席に座って行った。


 


 

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