第64話 凛


 テスト期間3日目。アタシが三笠に無理を言って始まった勉強会。叶恵にとってアタシは、相当に邪魔な存在だろう。

 自分で言うのもなんだが、好きな人との2人きりの勉強会に、他の女が入って来た訳である。

 最初は相当な修羅場になる事を覚悟していた。

 しかし、今のところは大きな衝突もない。

 そうさせない要素が、この勉強会には存在していたのである。


 「なあ、小百合、ここの文章にある五十歩百歩って、どう言う意味なんだ?」


 「えっと、どんぐりの背比べと大体同じ意味かな?」


 「いや、アタシその言葉も分かんないんだけど……」


 ことわざの意味をことわざで説明すると言う、いつものド天然ぶりを発揮する小百合に、アタシはツッコミを入れる。

 案の定、叶恵と三笠は吹き出していた。


 そう、彼女のこの天然な性格が、勉強会の雰囲気を良くしてくれていたのである。

 

 「あははっ、やっぱ面白いなぁ、小百合ちゃんは」


 まるで小さな子供を可愛がる様に叶恵にそう言われて、頭を撫でられる小百合。

 高校生にもなって頭を撫でられると言うのは、普通恥ずかしがると思うのだが、小百合はされるがままで、そんな事よりなぜ笑われたのかと、首を傾げていた。


 「そう言う叶恵は、意味分かるのか?」


 すると、馬鹿にする様な顔で三笠が叶恵にそう聞いてくる。

 対して叶恵は痛いところを突かれたのか、露骨に目線を逸らした。


 「も、もちろん、どんぐりの背比べと同じでしょ?」


 「お前も分かってねーじゃねーか」


 そんな叶恵と三笠のやり取りにも、アタシは吹き出してしまう。

 小百合が居なければ、こんな雰囲気で勉強など出来なかっただろう。

 最初は叶恵に対する嫉妬心で参加した勉強会だったが、いつの間にか4人ともいい雰囲気で勉強していた。

 

 「それで、このことわざはどう言う意味なんだ?」


 「ああ、これは一見差がある様に見えるけど、よく見てみると実は実力にそんな差は無いって意味だね」


 アタシが三笠に質問すると、模範解答の様な返答が返って来た。

 どうやら教えるのが上手いのは、小百合より三笠の方らしい。


 「おー、じゃあ私と凛ちゃんみたいな感じだね」


 すると、納得した様な顔で、叶恵がそんな事をぬかして来た。


 「どう言う意味だ、コラ」


 失礼な事をぬかす叶恵に対し、アタシはツッコミを入れる。

 ここ数日で叶恵の勉強の出来なさは身に染みている。

 なんというか、叶恵は勉強が出来ないのではなくて、そもそも勉強をする気が無い様に思えた。隙を見ては小百合にちょっかいを出してるし、その度に三笠に怒られている。しかし反省する事無く、寧ろ怒られて喜んでいる様子だった。……マゾなのか?コイツ。

 それはともかく、少なくともアタシは叶恵より勉強が出来ると思っているので、一緒くたにされるのは心外だった。

 

 「ばーか、お前が一番ヤバいだろーが。どっちかって言うと、提灯に釣り鐘だよ」


 すると、三笠が叶恵に向かってそんなツッコミをして来た。


 「?、どう言う意味?」


 対して叶恵は意味が分かってないのか、怪訝な顔をして首を傾げる。唯一、小百合だけが吹き出していた。


 「馬鹿には意味が分からんだろーな」


 言葉通り、馬鹿にする様な顔でそう言い放つ三笠に対し、叶恵は膨れっ面になった。

 どうやら良い意味では無い様だ。


 因みに、アタシも知らなかったので後で調べてみたら、提灯と釣り鐘の様に姿形は似ているが、重さ、つまり中身は全く釣り合っていないと言う意味らしい。



 そしてこのことわざは、釣り合っていないカップルや、片想い(片重い)と言う、シャレの意味でも使われることわざだった。

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