第62話 洋介


 テスト勉強2日目。昨日、あれだけ真面目に勉強したのだ。いつも何かと理由を付けては勉強しようとしない叶恵が、今日も同じく真面目に勉強……


 「ねーねー、小百合ちゃん、コレ可愛くない?」


 「うん?どれ?……あ、可愛い……」


 する訳なかった。叶恵はスマホを開いて、何かの画像を篠塚さんに見せている。

 

 「……オイ、勉強は?」


 俺がいつもより少し低い声でそう言うと、叶恵はヘラヘラと、篠塚さんは怖がってしまったのか、眉毛をハの字にして震え上がった。


 「ちゃんとやるってー、それより、新しい友達とコミュニケーション取る方が大事じゃん?」


 反省するどころか開き直る叶恵。コイツ、本当に勉強する気があるのだろうか?

 と言うか、叶恵の篠塚さんに対する距離感がやけに近い気がする。呼び方もいつの間にか下の名前で呼んでるし。


 「……篠塚さんの勉強の邪魔はするなよ?お前と違って優等生なんだから」


 「おー、怖。鬼がいるよー。怖いねー、小百合ちゃん」


 わざとらしく怖がる仕草をして、篠塚さんの背中に隠れる叶恵。

 案の定、篠塚さんは困った顔をしていた。


 「なんか、仲良いな?いつの間にそんな仲良くなったんだよ?」


 すると、横山さんがそんな事を叶恵に聞く。


 「昨日は話さなかったけど、喋ってみると面白い子でねー。私、気に入っちゃった」


 後ろから篠塚さんに抱き着く様にして嬉しそうにそう言う叶恵。

 多分、2人は俺たちより先に来ていたので、その間で何かしらの話でもしたのだろう。

 叶恵は随分篠塚さんの事を気に入ってるみたいだった。


 「?、……?」


 対して篠塚さんは首を傾げて、叶恵に抱きつかれるがままにされている。

 彼女自身はなぜ叶恵に気に入られたのか分かっていない様子だ。


 「……まあ、仲がよろしい様で何よりだけど、ほどほどにしとけよ?」


 「はーい」


 俺は一言、それだけ言うと叶恵は上機嫌に返事を返して来た。

 ……なんだか小動物を可愛がっている様な感じだ。

 横山さんの時もそうだが、やはり篠塚さんには人に好かれる何かを持っているらしい。

 

 「じゃあ、始めよっか?」


 気を取り直して俺がそう声をかけると、3人とも学生バッグから勉強道具を取り出す。

 叶恵は地歴、横山さんは数学、篠塚さんは英語の教科書を取り出した。


 「横山さんは、今日は英語じゃないの?」


 横山さんは昨日の英語とは違う教科だったので、気になった俺はそう聞いてみる。


 「……いや、アタシは今日は数学をやるよ。最近授業でも難しくなって来て復習もしたいからな」


 「了解、分からないところがあったら聞いてね?」


 やはり根は真面目な少女なのだろう。見た目は叶恵より派手だが、中身は叶恵より真面目だ。


 「篠塚さんは?」


 「わ、私は英語かな?ちょっと苦手だし……」


 篠塚さんは横山さんと同じで英語が少し苦手らしい。

 しかし、それも叶恵に比べれば大分良い。


 「英語は単語をいっぱい覚えれば何とかなると思うよ」


 「う、うん!、がんばる……!」


 篠塚さんはやる気満々の様子で、ドヤ顔を決めてサムズアップして来た。

 そして、最後の問題児は……


 「……さて、叶恵は?」


 「壊滅的であります。どうか今日もよろしくお願いいたします」


 俺からどうこう聞く前に、頭を下げて叶恵はそうお願いして来た。

 全くもって嬉しくない潔さだ。

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