第54話 叶恵
「……そう来たか……」
昼休み、スマホの画面を見て私は難しい顔でそう呟く。
メッセージの送信主は、横山凛。どこで私が洋介に勉強を教えて貰う事を知ったのか。
メッセージの内容は、
『三笠との勉強会に、アタシも混ざっていいか?』
と言う、シンプルなものだった。どう言う経緯で勉強会の事を知ったのか分からないが、これは厄介だ。
「……また難しい顔してる」
すると、一緒にお昼を食べていた優花里ちゃんに、またかと言う風に呆れられながらそう言われる。
「どうせ、三笠くん絡みなんでしょ?」
優花里ちゃんはストローパックのコーヒー牛乳を
最近、私がこの様に難しい顔をしている時は、大体洋介の事を考えてるのだと優花里ちゃんは邪推してくる様になった。
……まあ、大体は間違いでは無いので、私も黙って首を縦に振っておく。
「……それで?、今度は何よ?」
「……私と洋介の不可侵領域に、立ち入ろうとしている不届きものが居る……」
「はあ?」
大真面目な表情でそう言う私に対し、何を言ってるんだと言う風に、優花里ちゃんはそう返してくる。
相変わらず他人事の様だ。
「とにかく、返信を……」
ともかく、今は凛ちゃんからのメッセージを返さねばならない。
正直、あまり乗り気では無いが、公園で自分から凛ちゃんに"ああ言った"手前、このメッセージを無下にする事も出来ない。
『いいよー☆、洋介にはもう言った?(^^)』
絵文字と顔文字を付けた可愛らしい返信を凛ちゃんに送るが、対照的に私の心は複雑だ。
「なんつー顔してんのよ……」
しかし、表情に出てしまっていたらしく、普通に優花里ちゃんに突っ込まれた。
「……そんな顔してる?」
「そりゃもう。1週間塩漬けした梅干しみたいになってる」
例えがよく分からないが、渋い顔をしていたのは確からしい。
「はぁ、何回も言うけど、そんな心配するなら告白すればいいじゃ無いの」
「………」
優花里ちゃんの指摘に、私は黙りこくってしまう。
今の状況は正に、ヘタレで優柔不断な私が招いた状況だ。
私がもし洋介に告白して、付き合ってでもいれば状況は変わったかも知れない。
今まで関係をなあなあにして来たツケが、ここに来て回ってきた様な感じだ。
……凛ちゃんは、洋介に恋をしている。それは、あの日に公園で彼女の口から聞いたので間違いない。
そして、その状況を作り出したのは、ある意味私でもあるのだ。
恐らく洋介は凛ちゃんの恋心に気付いて無いだろう。それでも、あの日の公園での反応を見る限りは、あるいは……
「……大丈夫?、顔色良くないけど」
すると、ずっと黙っていた私を見て、優花里ちゃんが心配そうにそう聞いて来た。先程の様な呆れた顔では無く、本気で心配している目だ。
「……ホント、自分の面倒くささが嫌になるよね。……あーあ、どうしよっか?」
自虐的に笑って私は間そう言う。全て自分で蒔いた種。いつからか、洋介が隣にいる事が当たり前になって、肝心な事をやって来なかった結果がコレだ。
優花里ちゃんはそんな私のナーバスな考えを読み取ったかの様に、深刻そうな表情になる。
「……あんた、あんだけ私に三笠くんの話をしといて、諦める気じゃないわよね?」
「それは無いけど、もし洋介が凛ちゃんを好きになったら……」
考えたく無い事だが、もしそうなったら、私はどうなってしまうのだろうか?
感情に任せてヒステリックになるのか?
それとも無理矢理にでも洋介を奪おうとするのか?
自分でもどう言う行動を取るのか分からない。それが私にとって一番怖かった。
「あー、もう!!しょうがない!!しっかりしなさいな!!」
すると、優花里ちゃんはそんなハッキリしない私に痺れを切らしたのか、わたしの頬を両手で掴み上げ、俯いていた私の顔を無理矢理上げさせる。
「な、なにひゅんの、ゆかりひゃーん」
ひょっとこみたいな情けない顔になりながら、私は抗議の声を上げる。
2、3度、優花里ちゃんの手をタップすると、ようやく頬から手を離してくれた。
「何中学生みたいな悩みでヘタレてんのよ!、この恋愛よわよわ女!!」
「よ、よわよわ女って……」
確かにその通りなのだが、それはあまりにもひどい言い草ではなかろうか?
しかし、優花里ちゃんはそんな事お構い無しにと喋り出す。
「相談乗ってあげるから、詳しく話してみなさいな!」
多少無理矢理だが、親身になってくれるのは分かった。
少し気恥ずかしさはあるが、今は彼女の優しさに甘えておこう。
「う、うん。……ありがと。……あのね?、今の凛ちゃんなんだけど……」
やはり人に悩みを打ち明けると言うのは、気が楽になるのだろう。
私は、今私が置かれている状況と、恋のライバルについての関係を、赤裸々に語り始めた。
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