第53話 洋介
「テスト勉強?」
「ああ、ホラ、アタシ今まで不登校だったし、勉強にもちょっと付いて行けてないからさ」
少し慌てているのか、割と早口でそう捲し立てる横山さん。
勉強をしようとしてくれるのは嬉しいが生憎、俺には先客がいた。
「誘ってくれるのはありがたいけど、先客がいてね。充分に見れないかも知れないよ?」
そう、今回のテストでは少しヤバそうな、幼馴染の面倒を見なければならない。
俺がそう言うと、横山さんは不機嫌そうな顔になる。
「……その先客って、叶恵?」
ズバリと言い当てられ、俺は驚いた顔になる。
叶恵と勉強する約束をしたのはつい最近の話だし、横山さんにもこの話はしてない。
「何で分かったの?」
単刀直入に俺がそう聞くと、横山さんは不機嫌そうな顔から一転、しまったと言う風な表情になった。
「え?あ、ああ。そ、それは……去年、アタシと叶恵は同じクラスだったろ?そん時にお前から勉強を教わってるって聞いたんだ」
「……ふーん」
何か隠しているような雰囲気だったが、俺は取り敢えずその相槌を一つだけ打っておく。
叶恵と、何かあったりしたのだろうか?
「……そのテスト勉強、アタシも混ざっていいか?」
すると、横山さんからそんな事を提案された。
「俺は良いけど、叶恵と横山さんって、そんな仲良かったっけ?」
横山さんと知り合ってから1ヶ月。俺の中での彼女の印象は、かなり人の好き嫌いが激しいと言うところだった。
叶恵は社交的な人間であるのであまり問題は無いように思えるが、横山さんは大丈夫なのだろうか?
「ああ、一年生の頃はそこそこ仲良かったからな。……それに、叶恵にだけオイシイ思いはさせたく無いし」
悪い笑みを浮かべて、意味深な事を付け加える横山さん。
オイシイ思とは、恐らく俺が叶恵に勉強を教えることがだろう。
「ははっ、まあ、こう言っちゃあれだけど、叶恵はあんま頭良くないんだ。だからいつも勉強を見てやんないと、すぐ赤点取ってくるんだよ」
困ったように俺は笑ってそう言う。もう4年程テスト前に叶恵の面倒を見ているので、今更何とも思わないが、そろそろ自分で勉強する方法を覚えて欲しいものである。
「……オイシイ思いってのはそうじゃ無くて……まあ、いいや」
すると、横山さんは困った表情になってそんな事を言って来た。
何だ?、叶恵だけ勉強を教えて貰うのが不公平だからと言う話ではないのか?
「幼馴染の面倒を見るついでと思って、アタシの勉強も見てくんねーか?この通り!!」
そして、両手で手を合わし、そうお願いして来る横山さん。
俺は別に構わない。どっちにしろ叶恵の勉強を見るのは確定事項だし、横山さんに関してもちゃんと学校に馴染もうとしてくれてる証なので、彼女の勉強を見る事は一石二鳥でもある。
「分かった。じゃあ、取り敢えず叶恵にも聞いてみるよ」
そう言って、俺は叶恵に説明しようとズボンのポケットからスマホを取り出そうとする。
「いや」
すると、そう言ってポケットに突っ込んだ俺の右腕を横山さんが掴んで来た。
「叶恵にはアタシから言っとくよ。面倒を見て貰うのはアタシだし、そこは礼儀として、な?」
「う、うん。じゃあ、お願いしようかな……?」
なんだか有無を言わせない感じでそう言う横山さんに対し、俺はその一言しか返せない。
確かに礼儀もあるかも知れないが、それ以外のものがあるように、俺は感じた。
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