第49話 凛
「三笠は、あまり小説を読まないのか?」
3人になった文芸部室で、アタシは三笠にそんな事を聞く。三笠はアタシらとは違い、マンガを読んでいる様だった。
それが何だか気になって、そんな事を聞いたのだ。
「うーん、そうだなぁ……たまに読んだりするけど、そんなには。マンガを読むことの方が多いかな?」
マンガから視線を外し、こちらに顔を向けて三笠はそう言う。
こう言ってはなんだが、少し意外だった。
「へぇー、意外だったな。真面目なお前の事だから、小難しい小説でも読んでるのかと思ってたわ」
「ははっ、よく言われるよ。でも、嫌いなわけじゃ無いかな?篠塚さんに勧められた小説は、面白いから最後まで見ちゃうし」
「ふぅん……」
なるほど、趣味で小説を読むほどでは無いが、それなりに読みはするらしい。
それより今の三笠の言葉に、少し気になる部分があった。
「……小百合の勧める小説、お前読めるのか?」
先程も言った様に、小百合の小説の趣味はとにかく渋い。さらに難解な日本語がたくさん出て来るので、普段から本を読んでないと理解しにくいのだ。
「?、うん、そりゃまあ、読めるけど」
当たり前だろと言う風にそう言う三笠。何だ?小百合の勧める本くらい読めて当たり前だとでも言いたいのか?
「今日だって借りた小説を篠塚さんに返しに来たんだし」
すると三笠は学生バッグの中に手を入れ、一冊の本を出す。
「ありがと、篠塚さん。これ面白かったよ」
「良かった、……因みに、どんなところが面白かった?」
小百合は、期待の眼差しで三笠に感想を求める。
どんな本を貸したのか、アタシも気になったので見てみると、やはり小難しそうなタイトルで、一見さんお断りみたいな雰囲気を醸し出している表紙だった。
「時代考察はかなり良く出来てたかな?、幕末の騒乱も、その時の日本の不安感もちゃんと書かれてるし、個人的にはかなり面白かったよ」
「!!、やっぱり、三笠くんなら分かってくれると思ってた……!!私はその当時の武士の心境もかなり細かに書かれてて、凄く感情移入しちゃった!」
「あー、分かるー!これぞ武士道って感じだったよねー」
やはりその小説は歴史モノだったらしく、小百合と三笠は勝手に盛り上がり、アタシだけがポツンと置いてけぼりな状況だった。
……何だか面白くない。
そりゃあ、アタシと違って学のある優等生の二人からしたら歴史小説は面白いかもしれないが、歴史が得意でないアタシは、全く付いていけないのだ。
「……それ、そんなに面白いのかよ?」
アタシは不機嫌になりそうな心を必死に隠しながら、その小説について尋ねてみる。
何だか仲間外れにされてる様な気分だった。
「え?あ、うん。……でも、凛ちゃんには合わないかな?今私が読んでるのと同じ、歴史小説だし……」
「……へぇー、なるほどー」
そして今の小百合の発言で、アタシは完全にキレてしまった。
馬鹿にされてる訳では無いのは分かっているが、何だか"このレベルの小説をお前が読むには、まだ早い"と言われた気分になったのだ。
「……上等だ。小百合、その本、アタシにも貸してくれねーか?」
「え?、う、うん。良いけど……この前凛ちゃん、『歴史小説はアタシには難しいから良いや』って言ってなかったっけ?」
いきなり険しい顔をしてアタシがそう言ったので、小百合は困惑しながらそう返す。
「あぁん!?言ってねーよ!そんな事!!」
難しいがなんだ。ここまでコケにされたら、意地でも理解してやろうと言う気にもなるものだ。
「しっかり読み込んでギャフンと言わせたらぁ!!」
「ギャフンて……」
まるで喧嘩にでも行く様なアタシの様相に、三笠も困惑しながらそんな事を返す。
自分でも、"これは小説の貸し借りの話だよな?"と、心のどこかで思いつつも、この時変な意地になっていたアタシは、この小説をどう攻略するかしか考えていなかった。
「う、うん。取り敢えず、貸してみるけど、分からない部分があったら私に聞いてね?」
小百合にも困惑されながら、三笠から受け取ったその小説をアタシに差し出して来る。
「ああ、最高の感想を、お前らに聞かせてやるよ……」
アタシはそう言って、受け取ったその小説をすぐさま開く。すると、いきなり見たこともない様な日本語が、所々に目に入った。
……これは、長い戦いになりそうだ。
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