第47話 凛


 アタシ、横山凛は不良のレッテルを貼られている。

 それ自体は自業自得なので仕方がない。自分でも納得している。

 それでも、クラスメイトのあの冷ややかな視線はこたえた。

 三笠はそんなアタシに親身になって接してくれたが、それでもこの学校にアタシの居場所は無いと、そう実感させられた。

 学校に来れば来るほど、日に日に孤立感は増して行った。

 そんな状況だからか。何もかもにイライラし始めて、遂には関係ない人にまでキツく当たってしまった。


 「おっす、小百合」


 「おはよ、凛ちゃん」


 そんな中、アタシは居場所を見つけた。文芸部に入ったのだ。

 三笠に誘われて渋々行った部活見学。初日こそ最悪な態度で行ってしまったが、その日の放課後の"ある出来事"から、もう一度行こうと決意した。

 それが功を奏したのだろう。アタシは晴れて、文芸部の一員となった。

 篠塚小百合と言う少女は、最初会った時はただの気の小さな少女だと思っていた。

 最初に会った時はキツく当たってしまい、もうこの少女とは関係を持つことは無いなと思っていた。しかし、彼女は意外にももう一度話したいと言って来たのだ。


 「……ありがと」


 「?、なんか言った?」


 「何でも?」


 彼女には聞こえない小さな声で、アタシは礼を言う。

 小百合は最初の印象とは裏腹に、相当に面白い子だった。


 超が付く程のド天然なのである。


 先日のスケバンの件もそうだが、それ以外にも突っ込みどころはたくさんあった。

 脚立が置いてあるのに、無理して背伸びして高い場所にある届きそうにも無い本を取ろうとしたり、アタシも黙って、小百合も黙って本を読んでいるのに、『凛ちゃん、呼んだ?』などと突然怖い事を言い始めたり、数を上げれば枚挙にいとまがない。

 三笠が、『篠塚さんは好かれるタイプ』と言った理由がなんとなく分かった様な気がした。


 「?、そう?、まあ良いや。それより凛ちゃん、この前の本、読み終わった?」


 小動物の様に首を傾げて、そう聞いてくる小百合。

 アタシは学生バッグの中からある本を取り出し、満足げに笑った。


 「ああ、面白かったぞ?」


 「!!、良かった…!!続きもあるから読んでいいよ…!!」


 小百合が本の話をする時は、本当に嬉しそうな顔をする。

 アタシは小百合に"ライトノベル"なるものの本を勧められ、それを読んでいる。最初は普通の一般小説を読んでいたが、アタシには難解過ぎて一冊読み終える頃にはかなり頭を使って、疲れてしまっていた。

 そんな時、小百合に勧められたのがライトノベルだ。

 セリフも多く、妙な言い回しや難しい単語もあまり出ないライトノベルは、アタシの肌に合っていた。

 挿絵も多いからだろうか?話もスッと入って来るし、なんだかマンガと小説を同時に読んでいる気分になるのだ。


 「小百合は、……相変わらず歴史モノを読んでるのか?」


 「うん!これはね、明治維新をして日露戦争に勝つまでの日本を舞台にした作品なんだけどね、時代考証とか当時の文化とかもかなり精密に研究されていてね、登場人物も実在した人をモデルにしてるから、リアリティが凄いんだよ!」


 「へ、へぇー……」


 普段の態度からは考えられないくらい饒舌な彼女に、アタシはたじたじとなる。

 小百合の小説の趣味はめちゃくちゃ渋く、1番好きなジャンルは、なんと歴史小説らしい。

 一回見せて貰った事があるが、アタシは歴史はからっきしなので、作中に出て来る単語にちんぷんかんぷんになってしまった。

 何だよ、二百三高地って……


 「と、取り敢えず、アタシはこの小説の続きを読みたいかな?」


 「え?、あ、うん。ちょっと待っててね」


 このままでは話が長くなると思い、アタシは自分が読んでいた小説の続きが見たいと小百合にお願いする。

 好きな本の話をしている時の小百合は、それはもう止まらない。こうして無理にでも遮ないと、延々と喋り続けるのだ。

 小百合は本棚に向かうと、アタシが読みたい本の続刊を探してくれる。


 「……えっと、あった。はい、コレ」


 そして、一冊の可愛い女の子の絵が描かれた表紙の本を、小百合から手渡される。


 「おー、これこれ。サンキュー、小百合」


 小百合から目当ての本を渡されて、アタシは満足げにそう言う。


 本のジャンルは例に漏れず、恋愛モノだった。



 


 

 

 

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