第46話 洋介
「あの……横山さんって何の本が好きとかある?」
大分逸れた話を本筋に戻し、スケバンの姿から制服姿に戻った篠塚さんがそう聞く。
「あー、アタシ、マンガしか読んだことねーんだよな」
横山さんは頭を掻き、苦笑いになってそう返す。
「それでも大丈夫だよ?昨日も言ったけど、マンガしか読まない部員もいるから……」
昨日の緊張した表情とは違い、柔らかい表情で篠塚さんはそう言う。
昨日の雰囲気が嘘の様に和やかだ。
俺は相性が悪いものばかりだと考えていたが、お互いに会話も出来ている。
やはりあの篠塚さんの格好が効いたのだろう。……恐らく篠塚さん本人が狙っていたものとは違う形になったのだろうが、結果オーライだ。
「ハハっ、マンガだけ読む文芸部員って、それ部活内容として良いのか?」
「私としても、もっと活字を読んで欲しいんだけどね」
そして、横山さんが冗談を飛ばし、それに困った様に笑って篠塚さんがそう返す。
会話もそうだが、お互い冗談を飛ばせる程打ち解けていた。
やはり人付き合いと言うのは第一印象だけでは決めてはいけないと、俺自身思い知らされる光景だ。
「そっかあ……じゃあ、横山さんって好きなジャンルとかある?」
「好きなジャンル?」
篠塚さんの質問に、横山さんが首を傾げる。
「うん。例えば、ミステリーが好きとか、エッセイが好きとか、歴史物が好きとか」
「うーん、そうだなぁ……」
横山さんは腕を組んで深く考える。
因みに俺は、小説もバトル物が好きだ。これはバトルマンガが好きなものもあるが、ライトノベルなどでよく見られる特有の、テンポの良い文章が俺は好きなのだ。
「あー、あるっちゃ、あるんだけど……」
すると、横山さんは恥ずかしそうに顔を赤らめて頬を掻く。
「?」
言い淀む横山さんに俺は違和感を覚える。別に好きなジャンルを聞いてるのだから、恥ずかしがる事も無かろうに。
「!!、じゃあ聞かせてもらっても良いかな!?」
すると嬉しそうに、期待する様な表情で篠塚さんはそう聞いて来た。
「え、えぇ?言うのか……?」
しかし、未だ横山さんは言いにくそうにしている。
だが篠塚さんは興味があるのか、期待の眼差しで横山さんを見つめていた。
「うっ……」
そんな表情をされると、横山さんも流石に言わざるを得ないのか、観念した様に口を開いた。
「……恋愛」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で、横山さんはそう呟く。少し俯いて、顔はさっきよりさらに赤くなっていた。
「え?、も、もう一回言ってもらっても良い?」
俺には辛うじて聞こえたが、篠塚さんには聞こえたなかった様で、もう一度聞き返す。
すると、俯いた状態から勢い良く顔を上げ、真っ赤な顔で開き直るかの様に横山さんは話し始めた。
「だから……!恋愛モノ!!……何だよ、意外だって言いてえのか!?」
真っ赤な顔でキッとコチラを睨め付け、そう言い放つ横山さん。別に俺達はそんなこと言ってないのだが……
しかし、昨日とは違い、真っ赤になって詰め寄るその顔に怖さは無く、寧ろ微笑ましく感じる程の可愛らしさがあった。
「れ、恋愛モノ?私もよく読むよ?……ちょっと待っててね?」
すると、篠塚さんがそう言って席を立ち、本棚を見廻す。そして、一冊の本を取ると、横山さんの前に差し出した。
「と、取り敢えず、こう言うのはどうかな?」
篠塚さんが取り出したのは、一冊の少女漫画の単行本。表紙には異常な程に目のハイライトが多い、正に絵に描いたような恋愛モノと言った感じだった。
おずおずと言った感じで、横山さんはそれを受け取る。
「ぶっ!!!」
しかし、それを見た瞬間、俺は吹き出してしまう。
イメージで言ってしまって悪いとは思うのだが、見た目がイカつい金髪ギャルが、キラキラの少女漫画を持っているのである。
あまりにも不釣り合いな光景に我慢が出来なかったのだ。
「こ、こんの!!」
すると、怒ったのか横山さんは依然として真っ赤な顔で立ち上がり、こっちに近寄って来た。
「そんなにアタシが少女漫画読むのが似合わねえかよ!?あぁん!?!?」
そして、腕を俺の首に回し、そのまま締め上げる。ヘッドロックと言うやつだ。
「あだ!、あだだだだ!!ごめん!ごめんって!!!」
苦しい体勢で、俺は必死に横山さんの腕をタップする。意外と力が強い。
「あ、あの、ぶ、部室内では騒がない様に……」
そんな光景を見て、篠塚さんは遠慮がちに横山さんを落ち着かせようとしていた。
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