第45話 洋介


 「……なるほど、横山さんと打ち解けるにはどうすればいいか、考えた結果がアレだと」


 「う、うん。お母さんがコレなら大丈夫って言ってたから……」


 昨日と同じく、篠塚さんと対面する様に俺と横山さんは座る。

 昨日と同じ形だが、違うのは篠塚さんの格好だ。

 明らかに文芸部室には場違い過ぎる。


 要約すると、篠塚さんは昨日帰った後、自分の母親に『不良の子と仲良くなりたい』と、相談を持ち掛けたらしい。

 すると、篠塚さんの母親は、自分が学生の頃に着ていた服を自分の娘に貸し、『舎弟の証として、何か貢いだ方がいい』とのアドバイスを受けたという事だ。

 因みに、あの違和感満載の喋り方は漫画でいろいろ学んだらしい。


 ……何と言うかまあ、突っ込み所しかない。


 まず、篠塚さんの言い方が悪い。確かに横山さんは不良のレッテルを貼られているが、もっとこう、言いようもあっただろうに。何故わざわざ親に心配される様な言い方をしたのか。

 そして、篠塚さんのお母さんだ。何故自分の娘が不良になるかも知れないと言うのに、それを助長する様なアドバイスをするのか。

 普通そこは心配するか引き留めるかを、するのだと思うのだが。

 そして、今時姐さんと呼んで焼きそばパンを買ってくる舎弟は存在しない。

 さらに、どうして篠塚さんはお母さんのアドバイスを疑問に思わずに、そのまま実行したのか。


 正に"どうしてそうなった"のオンパレードだ。


 篠塚さんが愛される理由として、この天然な言動が挙げられる。

 この様に本人は大真面目なのだが、はたから見たらどう解釈してもおかしい様な行動や発言をする事があるのだ。

 そして、大人しい篠塚さんのお母さんが元ヤンだった事も意外過ぎる。

 ここ5分であり得ない程の情報が舞い込んで、俺は頭がパンクしそうになっていた。


 「?、ど、どうしたの?三笠くん?大丈夫?」


 頭を抱える俺に対し、オドオドしながら心配してそう聞いてくる篠塚さん。原因は彼女であるのだが、やはり優しく、思いやりのある少女だ。


 格好はスケバンだが。


 「へぇー、コレがスケバンかぁ……」


 対して横山さんは、興味津々に篠塚さんを見ながらそう呟く。

 ……文芸部の趣旨とは大き過ぎる程かけ離れているが、興味を持ってくれたなら何よりだ。


 「お、おっす!!自分、気合い入ってるっすからあ!!」


 そして、弱々しい声を必死に張り上げるようにして、篠塚さんはそう返す。付け焼き刃の喋り方なので、キャラがブレブレだ。

 ……と言うか、まだやるつもりなのか?それ。


 「……取り敢えず、アタシは昨日の事について謝りに来たんだ」


 すると、横山さんは雰囲気を変え、真面目な顔になると席を立ち上がった。



 「……ごめん、昨日はあんな態度を取って」


 

 一言、そう言うと横山さんは深く頭を下げる。真面目に謝っている事は、態度と口調で分かった。

 謝られた篠塚さんは、どう対応して良いのか分からず、あいも変わらずあたふたしている。

 ……スケバンだったら、そこは快活に笑って許してあげるところだぞ?


 「う、うん、気にして無いよ?それより、昨日部活の説明途中で終わっちゃったから、続き、聞いてみる?」


 そして、快活には笑わなかったが、遠慮がちに微笑んで、篠塚さんはそう言う。

 やはり、俺としてはこっちの彼女の方がしっくり来る。


 「……うん、ありがと」


 そして、横山さんも一言、それだけ言ってから顔を上げた。


 見た目が派手なギャルが謝って、オドオドとした小さなスケバンが許すと言う、なんとも妙な光景がそこにはあった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る