第43話 洋介
「おはよ、横山さん」
「おっす、三笠」
翌朝の教室、横山さんに挨拶をすると、意外にも彼女の機嫌は良かった。
昨日の文芸部室の一件で相当な不機嫌を覚悟していたのだが、それとは真逆の、なんだか吹っ切れた様な顔をしている。
「……何だよ、変な顔して」
「い、いや。今日は随分と機嫌が良いなって」
そんな感想が表情に出ていたのか、横山さんに怪訝そうな顔で見つめられる。
俺もいつも通り接したいのだが、学校に登校し始めてからこんなに機嫌が良いのは、初めてだ。
昨日の件もあって、何か企んでいるのではないかと、変な勘繰りをしてしまう。
「べ、別に?、いつも通りだし」
そして、少し顔を赤らめて目を逸らしながら横山さんはそう言う。
相変わらず表情に出やすい人だ。やはり昨日、あの後帰った後に何かいい事でもあったのだろう。
「まあ、いいや。それで、今日の放課後だけど、もう一回文芸部に行ってみる?」
俺は一応確認の為に、横山さんにそう聞いてみる。メッセージでの返信は行くと言っていたが、信憑性がない為、言質を取りたかった。
「ああ、いいよ。アタシも昨日は何も説明聞かずに帰っちゃったし、それに、篠塚さんに謝りたいしな」
そして横山さんから出て来たその言葉に、俺は耳を疑う。俺の中では謝罪のしゃの字も無いと思っていた横山さんが、昨日のことについて篠塚さんに謝ろうとしている。いや、嬉しい事ではあるのだが、あまりの変わりぶりに、俺は困惑を隠せなかった。
本当に昨日、何があったのだろうか?
「……また変な顔してんじゃねーよ。
何だよ、アタシおかしな事言ったか?」
「い、いや?何でもないよ。でも、良かった。篠塚さんも、もう一度横山さんと話したいって言ってたし」
兎にも角にも、もう一度文芸部に顔を出せるチャンスが巡って来たのだ。
放課後までに上手く行く様、俺が間を取り持たなければならない。何か対策でも考えておこう。
______ピーン、ポーン、パーン、ポーン____
すると、朝のHRを知らせるチャイムが鳴った。
「ああ、もうこんな時間か。じゃあ三笠、放課後よろしくな」
「う、うん……」
横山さんにバシバシと強めに肩を叩かれ、彼女は上機嫌に自分の席に戻って行く。やはり少し痛い。
俺もいまだに困惑しながらも、自分の席に座った。
「あいー、点呼とるぞー」
すると、いつもの通り担任がやる気のなさそうな声を上げて教室に入って来た。そのまま教壇に登り、出席簿を開く。
「秋山ー」
「はい」
朝の点呼の時間でさえ、俺は横山さんが上機嫌な理由を考える。まさかあのメッセージで機嫌が良くなったとか?……いや、そんなはずはあるまい。
ならどうして?
考えれば考える程理由は分からない。
「……三笠?……おい、三笠!」
「え?、あ、は、はい!」
いつのまにか点呼は自分の番になっており、担任に何度も声を掛けられて俺はようやく返事を返す。
何事かとクラスメイトから少し視線を浴びた。
「よーし、いるな。次、宮坂」
「はい」
取り敢えず欠席ということにはならずに済んだので安心する。
いかんいかん、委員長としてしっかりしなくては。
「……次、横山」
「はい」
そして横山さんは、登校し始めてから初めて、点呼でまともに返事をした。
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