第42話 洋介


 「やっぱさ、お風呂上がりはコーヒー牛乳だと思うんだよね」


 風呂から上がり、俺にリビングで髪を乾かされながら、パックのコーヒー牛乳をストローで飲み、叶恵はそんな事を言う。

 

 「当たり前だろ、それ以外ねーよ」


 心底どうでもいい話題に、俺も適当に返す。

 いつも通り。叶恵を見ても変わったところは特に無い。いつも通りリビングでだらんとリラックスして、髪の毛を触られるがままだ。

 やはりあのメールの違和感は俺の勘違いだったのだろうか?普段はこんな事で引っ掛かる事はないのだが、何故か今日はそればかりが気になっていた。


 「あちっ!!」


 「あ!、ごめん!」


 そんな考え事で手が覚つかなくなってしまった俺は、ドライヤーを一点に当ててしまって、叶恵から熱いと苦情の声が出る。


 「もー、しっかりしてよー。乙女の髪は大切なんだよー?」


 「あ、ああ。ごめん。ボーッとしてた」


 流石に女の子の髪をぞんざいに扱ってしまったので、ここは素直に謝っておく。


 「珍しいね、洋介がボーッとするなんて」


 すると、叶恵はこちらを振り返り、不思議そうな顔でそう聞いて来た。

 ああ、もう、モヤモヤする。このまま黙っても埒があかないので、俺は直接聞いてみる事にした。


 「なあ、叶恵、さっきのメッセージ何だけど、『ばーか』って、どう言う意味だよ?」


 俺がそう言うと一瞬、叶恵は肩を震わせた。


 「…別にー?何でもないよー?」


 しかし、いつもの気の抜け切った声で、叶恵はそう返す。表情もいつも通りだ。


 「そうか?あんなメッセージ。叶恵が送るなんて珍しかったからな」


 「気まぐれよ気まぐれ。日頃の鬱憤を洋介にぶつけたくなったのだ」


 「……ストレスの捌け口にされたって事かよ……」


 やはり、いつもと変わったところは無い。叶恵はケラケラと笑ってそんな事を言う。

 やっぱり俺の勘違いだったのだろうか?



 「あと、鈍ちんの誰かさんに向けたメッセージでもあるかな?」



 すると、叶恵の口からそんな言葉が飛び出した。


 「……俺に送ってんだから、俺しか居ないじゃん」


 鈍いとは心外だ。クラス委員長なのでそれなりに周りに気を遣っているし、コミュニケーションもそれなりに取っている。

 俺は不服そうにそう言った。


 「あはは、そうなんですよ。洋介くんは鈍ちんさんなんですよー」


 そんな俺に対し、馬鹿にする様な顔で叶恵はそう言う。何が鈍いのかは分からないが、叶恵の反応を見る限り、大した問題でもなさそうだ。


 「そんな事より、手が止まっておるぞー?」


 すると、叶恵はドライヤーを持つ俺の右手をペシペシと叩いて、続きの催促をしてくる。

 全く、本当にお嬢様みたいな態度だ。


 「はいはい、加減はいかがですか?お嬢様?」


 「うむ、よきにはからえー」


 その後も、そんなやり取りをしながら叶恵の髪を乾かす。


 やはり、あのメッセージの違和感は、勘違いだったらしい。

 


 


 

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