第41話 洋介


 横山さんからの返信は、しばらく経ってから来た。

 文芸部室での一件の後、俺は家に帰り、彼女に、"もう一度文芸部に行こう"と言う旨のメッセージを送った。

 直ぐに既読は付いたのだが、1時間以上返信がなかったのでほぼ諦めかけていたところだった。

 そんな中、彼女から返信が来たのである。


 『分かった。明日もう一回行く』


 内容は、そんな単純なものだった。正直、今日の横山さんのあの態度を見た後なので、ダメ元での送信だったのだが、予想外にも肯定的な返事が返って来たので、メッセージを送った自分が少し驚いた。

 家に帰り、心でも落ち着いたのか、それとも、何か別の心変わりがする様な事でもあったのか。

 まあとにかく、横山さんがこうやって前向きな返事をしてくれると言う事は、彼女自身、まだ変わりたいと言う意識があると言う事だ。それなら、こちらとしても手助けはしたい。


 『了解。じゃあ明日の放課後、もう一回文芸部に行こっか』


 そんな文字をスマホに打ち込み、横山さんに送信をする。

 一度は失敗したが、もう一度やれば問題無い。横山さんがそんな気持ちになってくれたのが、他人事ながらに嬉しかった。


 _____ピロンッ______


 すると一件、通知が来た。もう返信したのかと、少し感心したが、送り主を確認すると、横山さんでは無く、いつも通り叶恵だった。


 「……なんだ?このメッセージ?」


 しかし、いつもと違う内容に、俺はそんな独り言を呟く。



 『ばーか』



 たった3文字の、よく分からないメッセージ。

 何が馬鹿なのか、何か叶恵に対してやらかしたのだろうか?色々考えてみるが、最近では思い当たる節は全く無い。

 しばらく考えたが、分からないので、俺は直接『何が?』と、これまた簡潔で直接的なメッセージを叶恵に送った。


 『なんでもない。言ってみただけ』


 そして、すぐにそんな返事が返ってくる。

 ……本当によく分からない。叶恵はこう言う意味のないメッセージを送る事はほとんど無い為、この『ばーか』の意味が益々分からなくなっていた。

 

 『それより、この後洋介んちに行く』


 そして、続け様に叶恵からメッセージが来る。いつも通りの絵文字も顔文字も無い、淡白な文章だ。

 俺ん家に来ると言う事は、怒っては居ないのだろう。ならなんであんなメッセージを送ったのか?


 『分かった。風呂入って行く?』

 

 考えても答えは出なかったので、俺はいつも通りそう返信する。すると、すぐに叶恵から『うん』との返事が返って来た。

 

 『風呂沸かしとくから、着替え持って来いよ』


 そしてこれまたいつも通りのメッセージを送ると、俺はスマホを閉じる。


 叶恵の文章から少しおかしな雰囲気も感じだが、多分気のせいだろう。


 この時はそんな事を思いながら、俺は部屋を出て風呂を入れる準備を始めた。

 



 

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