第37話 洋介
「と、取り敢えず、文芸部の活動内容を説明します……」
あたふたしながらも、篠塚さんは文芸部の説明を開始する。
一年生の頃は横山さんの様な態度を取られたら萎縮しまくっていたのだが、今は緊張しながらもハッキリとものを言っている。かなり成長している様だ。
「えっと、横山さんって好きな本とかある?」
恐る恐るだが、精一杯の勇気を振り絞り篠塚さんは続けてそう聞く。
「……別に。アタシあんま本読まねーし。マンガは読むけど……」
お?、横山さんが反応した。いつもなら舌打ちか無言を貫き通すだけだが、俺もいる手前か、篠塚さんの質問にちゃんと返している。
「え、えっと、マンガでも大丈夫ですよ?部員の中にはマンガしか読まない人も居ますし……」
そんな横山さんに、篠塚さんもたじたじとなりながらそう言う。
文芸部とは読書をする部活だと聞いていたが、どうやらマンガもその部類に入るらしい。……俺も興味が出て来たな。
「好きなマンガとかあったら、聞いてもいいかな?」
相変わらず緊張気味だが、優しく篠塚さんがそう聞くと、横山さんはずっと晒し続けていた目線を篠塚さんに移す。
鋭い目線で見られた篠塚さんは睨まれたと勘違いしたのか、「ひゃい!?」と、変な声を上げた。
「なあ、篠塚、だったか?お前はアタシが文芸部なんかに入って良いと思ってんのか?」
「……はえ?」
横山さんの的を得ない発言に、篠塚さんは素っ頓狂な声を出す。かく言う俺も声には出さないが、横山さんの発言の意味が分からなかった。
「アタシみたいなんが文芸部に入ったら迷惑だろ?アタシがここに居たら他の文芸部員がビビるだけだ」
「そ、そんな事は……」
「現にアンタが今ビビってんじゃねーか。何で三笠がアタシをこの部活に入れようとすんのか分かんないけど、アタシはこんな所に居たくは無いね」
篠塚さんの反論を遮る様に、横山さんはそう言い放つ。
興味があるものかと思ったが、やはり横山さんだった。
「………」
それを聞いて、篠塚さんは俯いたまま無言になってしまった。
横山さんのキツい物言いに、またしても涙目になっている。
「………ッチ、居心地が悪い。帰るわ」
すると、いつもの様に舌打ちをして、横山さんは席を立ち、部室から出て行った。
部室を後にする横山さんに対し、俺も篠塚さんも声を掛けられず、後に残された俺と篠塚さんは、しばらくの間無言になる。
「……ごめんね。本当はいい子なんだけど、ちょっと素直になれない人でね」
未だ俯いている篠塚さんに対し、フォローする様に俺はそう言う。
ここまでやり取りを見て来たが、やはり相性は良い様には見えなかった。
「……ううん、良いよ?……でも、横山さんの気持ち、少し分かるかも」
しかし、篠塚さんは俯いた顔を上げ、少し微笑んでそう返してくる。
意外な反応だったので、俺も少し驚いてしまう。
「そうなの?」
性格は真反対。何処に横山さんと共感する部分があったのだろうか?
「うん、多分、横山さん自信が無いんじゃないかな?」
「……自信?」
彼女が不良である理由、それは自分に自信が無いから。
しかしその発言だけでは、篠塚さんが気持ちが分かると言った理由が分からない。
「横山さん、前は優等生だったんでしょ?だから今あんな感じになって、『いまさら自分は何をやってもダメだ』って、思い込んでるんだと思う。………昔の私が、そうだったから」
篠塚さんが続けてそう言うと、俺はようやく納得する。
前にも言ったが、一年生の頃の篠塚さんはとにかく気が小さくて、自分に自信が持てない女の子だった。
"どうせ私なんかが何やったって上手く行くはずがない"
そんな事を、一年生の時に何回も篠塚さんの口から聞いたことがある。
恐らく、横山さんも考えとしてはそんな感じなのだろう。性格は真反対だが、そんな態度を取ってしまう根拠は、二人とも同じだったのである。
「……横山さん、もう一度来ないかな……」
そして、篠塚さんは横山さんの出て行った部室の扉を見ながら、そう呟く。
恐らく自身と同じ境遇の人間を、放って置けないのだろう。そして放って置けないのは、俺も同じだ。
「……明日、もう一回連れて来てみるよ」
俺も横山さんが出て行った文芸部室の扉を見ながら、そう呟いた。
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