第35話 洋介
横山さんについて、どうにかしようとして2週間が経った。結果は変わらず、相変わらず彼女はクラスで孤立している。
試行錯誤、色々試してはいるのだが、彼女が変わる気配は無い。今日だって放課後まで色々話たが、いつも通り俺には態度が柔らかいのだが、授業になるとその態度が、180度ガラリと変わった。
「はい、これにて委員長会議を終了します。皆さん、引き続きより良いクラス作りに励みましょう!」
そして、今俺は月一回ある学年の委員長同士が集まる会議に来ていた。
3組の委員長、大島さんが締めの言葉を言うと、各々席を立ち始めた。
「……あの、おつかれ、三笠くん……」
すると、横から気の弱そうな声で話し掛けられる。
「え?、ああ、お疲れ。篠塚さん」
俺に話し掛けたのは、2組のクラス委員長の一人、篠塚さんだった。
相変わらず少し緊張気味で、その小さい背丈から小動物の様な印象を受ける。
「……大丈夫?会議中、ずっと難しい顔をしてたけど……」
すると、俺の顔を覗き込む様に篠塚さんが心配そうに聞いて来た。
「……そんな顔してたかな?」
篠塚さんの言葉は図星だ。今日の会議、内容は殆ど頭に入って来ず、ずっと横山さんをどうしようかと考えていた。
「うん、ちょっと珍しかったから。……何か悩みでもあるの?」
篠塚さんにそう聞かれ、俺は腕を組んで少し考える。横山さんの問題を、篠塚さんに話しても良いのかと。
幼馴染である叶恵には、何度聞かれても横山さんの話題は出さなかった。理由は、横山さんと同じ境遇に叶恵もなった事があるからだ。孤立を経験した者に、『クラスメイトに孤立してる人間が居るんだけど、どうしたらいい?』などと聞けない。その話を聞いて叶恵が良い気分になる訳がないし、何より当時のトラウマを掘り返す結果になりかねない。
しかし、篠塚さんはそう言うのとは無縁な人間だ。彼女は気は弱いが、その小動物の様な仕草とあがり症な性格で、周りにサポートして貰いやすい。つまり、愛され体質なのだ。
「ちょっと、ウチのクラスに困った子がいてね……」
彼女になら相談しても大丈夫だろう。俺はそう思い、横山さんについて篠塚さんに話し始めた。
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「……そっか、その横山さんって人、最近まで学校に来てなかったから、クラスで独りになっちゃったんだね……」
事の顛末を話し終えると、篠塚さんは悲しそうにそう呟く。
篠塚さんは、こう言うところが愛される所以でもある。感情移入しやすく、人の痛みを分かってあげられる人間なのだ。横山さんの話をしいても、驚いたり、悲しい表情になったりと、色んなリアクションをしてくれた。
「どうにかしたいんだけど、ちょっと手強くてね……」
苦笑いになって、俺はそう言う。正直、色々やったが、万策尽きていると言った感じだった。
そんな思いもあって、この様に篠塚さんに相談したのである。
すると、篠塚さんは少し俯いて、考える様な仕草をし始めた。
「………うん、決めた」
ひとしきり考えたのか、意を決した様に篠塚さんはそう言う。
「?、何が」
「三笠くん、その、横山さんって、部活に入ってないんだよね?」
すると、篠塚さんが突然そんな事を聞いて来た。確かに部活に入ってないとは言ったが、何か関係あるのだろうか?
「えっと、その、横山さん。良かったら文芸部に誘ってみない?」
「え?文芸部?」
篠塚さんの意外な提案に、俺は素っ頓狂な声をあげる。文芸部とは、篠塚さんが所属している部活だ。基本読書をしたり、自分で小説を執筆したりする部活。
確かに部活に入れば横山さんも何か変わるかもしれない。しかし、あの性格が文芸部に合うかと言われれば、首を縦には振れなかった。
「確かに良いかもだけど、横山さんに合うかなあ?」
下手したら篠塚さんだけでなく、その他の文芸部員にも迷惑がかかるかもしれない。
心配そうに俺がそう言うと、篠塚さんは少し自信ありげに微笑んだ。
「……大丈夫、見た目やイメージで人を判断しちゃいけないって、教えてくれたのは三笠くんでしょ?」
「……そんな事言ったっけ?」
「うん、……それに、一年生の頃には三笠くんにいっぱいお世話になったから、そのお礼」
恥ずかしそうに顔を赤らめて、篠塚さんは聞こえるか聞こえないかの声でそう言う。
どうやら一年生の頃に色々と面倒を見たお礼を、ここで返してくれるらしい。
それならば、少し篠塚さんを頼ってみよう。
「分かった。ありがとう篠塚さん。明日、無理矢理にでも部室に横山さん連れて来るから」
「う、うん。無理矢理は、可哀想だからやめた方がいいんじゃないかな?」
絶対に文芸部室に連れて行くと決意した俺に対し、篠塚さんはあたふたしてそう返してくる。
だが、この篠塚小百合との出会いが、後の横山凛の運命を大きく変えて行くことになる。
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