第34話 叶恵
最近、洋介の様子がおかしい。
幼馴染として付き合って来て10年以上。洋介が悩んでいるところは数える程しか見たことがない。
元来の生真面目さが故、トラブルに巻き込まれることも少ないし、洋介は頭が良いから何かしら壁にぶつかっても、自分で解決策を見出すのだ。
しかし、今の洋介は確実に何かに悩んでいる。宿題に顔を向けてはいるが、シャープペンシルを握っている右手は全く動いていないのがいい証拠だ。
「……まだ何か悩んでんの?」
いつものように洋介のベッドに寝転がり、私は洋介に向かってそう言う。
ここ2週間はこんな感じだ。
……大体検討は付く。2週間前と言えば、洋介が私に凛ちゃんの事について聞いて来た時期だ。
「ん?、あー、……そう見えるか?」
そして、この曖昧な返事。何か私に隠し事をしているのは明白だった。
それ自体は別に良い。確かに私と洋介は幼馴染だが、誰にだって人に隠したい事の一つや二つはある。
私にだって洋介に言えない事など沢山ある。
しかし、ある程度洋介の悩みが予測出来てしまうと言うのが、私が気が気でない理由だ。
凛ちゃんの何で悩んでいるのか。
恋愛方面でない事は、ここ最近の洋介の反応で分かった。
……なら、いつものお節介モードでも発動したのだろう。
凛ちゃんの不良をどうにか矯正しようとしてるのは、何となく予測出来る。
「ここ最近はずっと眉間にシワが寄ってんじゃん。クラス委員長がそんなんじゃ勤まんないよ?」
「……そんなに寄ってねーよ。悩みなんて無いし、お前の勘違いだ」
しかし、洋介は何故か悩みを隠そうとする。私には相談出来ないと言う事だろうか?ならどうして?、考えてみたが分からない。『何か悩みがあるのか』と、ここ2週間それとなしに聞いて来たが、洋介から帰って来る返事はどれも曖昧なもので、ついに私に打ち明ける事は無かった。
凛ちゃんの事だと分かっているが故に、余計にそれが気持ち悪かった。
「……凛ちゃんの事でしょ?何でそんな隠そうとすんのよ?」
痺れを切らした私は、吐き捨てる様にそう言い放つ。すると、洋介は一瞬驚いた顔をして、すぐさま何ともない様な顔に戻った。
「……違うって。何でそこで横山さんが出て来るんだよ」
しかし、この期に及んで洋介はそんな事を言う。その意固地な態度に、私も少しカチンときてしまった。
「この期に及んでまだそんな事言う?最近洋介が悩んでるのは分かってんだから。何でそれが私に言えないのか分かんないけど、そこまで信用されてないとは思わなかったわ」
早口で捲し立てる様に私はそう言い放つ。
言葉が出る度に感情が表に出て、最後の方はかなり口が悪くなってしまった。
すると、私のその物言いに洋介も不味いと思ったのか、宿題に向けていた顔をこっちに向けた。
「………はぁー。分かった。確かに、横山さんに関して悩んでるのは確かだ」
観念した様に洋介はため息をついてそう言う。なんだ、やっぱり凛ちゃん絡みなんじゃん。薄々分かっていた事だが、いざ本人の口から聞くとなんだかモヤモヤして来た。
「……お前が悩んでる俺に対して何かしようとしてくれてるのは分かるよ?でも、今回はお前に言えない理由もあるんだ。……納得出来ないかもしんないけど、今は踏み込まないでくれるか?」
「…………むぅ……」
諭す様に洋介にそう言われると、私も反論出来ない。
昔からこうだ。私が洋介に怒ったり文句を言ったりすると、洋介は決まって対立するのでは無く、この様に困った様に笑って諭して来る。
すると、昂っていた感情が急速に冷やされる感覚になり、受け入れてしまうのだ。
「………分かった。でも、それじゃ私の気が済まないから」
私は洋介にそう言い放ち、ベッドから身を起こして洋介の部屋から出ようとする。
このままでは鬱憤が溜まってしまうので、その対価ぐらいは貰おう。
「気が済まないって……何させる気だよ?」
洋介は相変わらず困った笑顔でそう返して来た。
「……家から着替え持ってくる。洋介んちで風呂入るから、髪、やって」
それでも納得は行かないが、今回はこの辺でお咎めなしとしても良いだろう。
それだけ言うと、私は洋介の部屋から出て行った。
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