第32話 洋介


 手強い。

 それが横山さんに対する俺の感想だった。

 授業中の横山さんの態度は相当なもので、不機嫌な態度を隠そうともしないその姿はクラスメイトどころか、先生でさえも萎縮してしまう程だった。

 取り敢えず授業の合間の小休憩中に話し掛けてみるも、授業中の不機嫌な態度が嘘かの様に俺に対しては明るく接して来る。

 そのギャップは相当なもので、あまりにも大きく変わるので授業中の態度に関しては突っ込み辛くなっていた。

 

 「メロンパンって、なんか飲みもんねーと食い切れないんだよなー」


 「そりゃまあ、分かるけど……」


 そして、今は昼休み。メロンパンを頬張りながら横山さんは他愛もない話をする。

 お昼休みならじっくりと話も出来るし、授業中の態度についても聞けるだろうと一緒にお昼を食べようと誘った。

 ……しかし、タイミングが全く無い。横山さんは心底楽しそうに、授業中の事などまるで記憶に無かったかの様に、俺に接する。

 この雰囲気で授業中の事を聞いたら、横山さんは絶対に不機嫌になると、直感で分かった。

 

 「……何変な顔してんだよ」


 「え?、あ、ああ、ちょっと考え事」


 悩んでいるのが表情に出てたのか、横山さんは怪訝な顔をしてそう聞いて来る。

 理由を悟られては不味いので、それとなしに誤魔化した。



 「………隠さなくてもいいよ。どうせ授業中の事についてだろ?」


 すると、心底面白く無い様な顔をして、吐き捨てる様に横山さんはそう言う。

 どうやら、すっかり見透かされていたらしい。


 「だったら、何で……」


 自覚してるのならば直せば良いではないか。至極単純だが、俺が思うのはそれしか無かった。


 「色々あんだよ。こっちも。お前は優等生だから分かんないかもしんないけど、アタシは不良だからな。今更真面目にやったって、誰も信用しないんだよ」


 「………そんな事……」


 無いとは言えなかった。朝に谷川さんとも同じ様な話をしたのだ。

 ふと、彼女の顔を見てみると、悲しそうな顔をしていた。今から立場を戻すのが難しいのは、彼女自身がよく分かっているのだろう。


 「……良いさ。クラスではアタシは浮いた存在だけど、三笠はちゃんと見てくれるだろ?」


 吹っ切れた様にそう言う横山さんに対し、俺はなんとも言えない困惑した顔になる。

 違う、違うのだ。そんな事を続けたら、いつかは関係も破綻する。



 周りから孤立した状態で集団に居続けると言うのは、とてつもなく精神を擦り減らすのだ。



 そして、たとえ俺が居たとしても、横山さんがその孤独に耐えられるとは思えない。

 腫れ物として扱われ、孤立した末路の中学生時代の幼馴染を、俺は知っているからだ。


 「ははっ、そんな顔すんなって。三笠の言いたい事は何となく分かるよ。……でも、今はちょっと無理そうなんだ……」


 目を伏せて、力なくそう言う横山さんに、俺は何も声を掛けられなかった。

 彼女は自信が無いのだ。今まで自分がして来た事を清算しようにも、目の前の高い壁に打ちのめされている。


 本当は、あの頃の自分に戻りたいと思って居るのだろう。


 なら、その手伝いぐらいはさせて貰おう。横山凛から、"不良"のレッテルをなんとしてでも剥がそうと。


 叶恵の二の舞には、絶対させまいと。

 

 


 

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