第31話 洋介

 

 「三笠くん、ちょっといい?」


 朝のHRが終わり、豹変した横山さんにショックを受けて呆然としていると、谷川さんから話し掛けられた。


 「う、うん。いいけど」


 困惑しながら俺は頷く。真剣な表情から見るに、恐らく横山さん絡みなのだろう。


 「じゃあ、ちょっと来て」


 ここではあまり話したくないのか、谷川さんは廊下に出て来る様に俺を促す。

 席を立ち上がり、教室を出る前に横山さんを確認してみると、やはり無愛想な表情で窓の外を見ていた。




 「……三笠くん、横山さんといつの間にそんな仲良くなったの?」


 廊下に出ると、開口一番不思議がる様に谷川さんにそう言われた。


 「まあ、昨日近所のスーパーで偶然会ってね。それでちょっと喋ったんだ」


 「……なるほど。朝来たら楽しそうに三笠くんと喋ってたからビックリしちゃって、ちょっと気になったんだ」


 まあ、昨日あれだけ無愛想な態度を取ったのだ。

 次の日に登校して、楽しそうに話しているのを見たら、誰だって驚くだろう。


 「……でも、何で戻るかなー……」


 俺は頭を抱えて残念そうにそう言う。せっかく登校して明るい雰囲気も見せたのだ。朝の点呼でも印象良く振る舞えば良かったのに。

 これでは不良のイメージがさらに先行してしまう。


 「……多分だけど、横山さん、あまり人を信用してないのかな?」


 すると、谷川さんが少し考える素振りをしてそう言って来た。

 しかしそれなら一つ疑問がある。


 「俺にはあんなにフランクに接して来たのに?」


 信用してないのならば、朝俺が話し掛けても無視をする筈だ。

 俺がそう言うと、谷川さんは困った様に笑った。


 「にぶいなぁ、三笠くんは。……なるほど、これなら和泉さんが苦労するのも分かるわ」


 「?、何でそこで叶恵の名前が出て来るの?」


 納得した様にそう言う谷川さんに対し、俺はさらに首を傾げる。

 何でそこで叶恵の名前が出るのか、さっぱり分からない。


 「何でも無いよ?でも、久しぶりに見たなぁ。あんな横山さん」


 すると。谷川さんは腕を組んでしみじみとそう言う。と言う事は不良になる前の、素の姿があれと言う事だろう。

 

 「俺としては、もっとクラスに馴染んで欲しいんだけど……」


 もしも横山さんが元に戻れたら、これ以上に嬉しい事はない。根の部分が良い人なのは、昨日今日と話して分かった。

 なら、後はその部分をクラスメイトに認めてもらうだけなのだが。

 しかし、そんな楽観的な思考を否定する様に、谷川さんは難しい顔になった。


 「……簡単に言うけど、かなり難しいかもね。三笠くんはずっと優等生だから分かんないかもだけど、人間関係って信頼を積み重ねるのは難しいけど、崩れるのは一瞬なの。……女性同士なら尚更ね」


 「………」


 現実を突き付ける様な谷川さんの言葉に、俺は苦虫を潰した様な顔になってしまう。

 心の何処かでは分かっていた。

 横山凛は、不良のレッテルを貼られている。確かに不良になる前は優等生だったかも知れないが、人間というのは良いイメージより、悪いイメージの方が印象に残りやすい。

 そして、悪いイメージを払拭するには、並大抵の事では覆せないのだ。


 「……横山さんは、諦めてるのかな?」


 「分かんない。でも、こうやって学校に来てるって事は、戻りたいって意識もあるんじゃないかな?」


 俺の疑問に、谷川さんもあやふやな返答をして来る。

 だが、このまま、不良のままで横山さんが学校生活を送るのは、何だか違う気がした。

 

 「……取り敢えず、もうちょっと話してみるよ」


 「……ホント、三笠くんってお人好しだねー」


 諦めきれず、そう言う俺に対し、谷川さんは苦笑いになってそう返して来た。

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