第30話 洋介
朝の教室は、早ければ早く着くほど爽快感がある。
小学校の頃、早起きをしていの一番に教室に着くと、なんとも言えぬ優越感を感じたと言う人は多いのではないだろうか?
俺の場合、高校生になってもその感覚は変わらず、1番とまでは行かないが教室に早く着く事が多い。
朝の澄み切った空気の教室は、心地が良いのだ。
扉を開けると、何人かもう登校しているのが確認出来る。いつも早く学校に来る面子だ。俺は彼らを"早起き戦隊"と呼び、心の中で尊敬している。恐らく早く来る理由は俺と同じなのだろう。
「ん?」
すると、窓際にいつもは居ない生徒が確認出来た。金髪で付けピアス。色白で目つきの鋭い、横山さんの姿だ。
「お、来たな。おっす」
横山さんは俺に気付くと、右手を上げて軽く挨拶して来る。
昨日とは打って変わっての、フランクな態度だ。
「おはよう、横山さん。何だ、もう学校来てんじゃん。真面目な生徒になったの?」
「うっせ。しばらく学校来てねーんだから、登校に何分掛かるか忘れてたんだよ」
俺が冗談めいてそう言うと、横山さんも負けじと俺の脇腹を突きながらそう返して来た。やはり少し強くて痛い。
「出来れば、髪とかピアスとかもどうにかして貰いたいんだけど」
「はあ?何担任みたいなこと言ってんだよ?んなもんする訳ねーだろ?」
これで身なりも普通にしてもらいたいなと思い、それとなしにお願いしてみたが、一蹴された。
「そっかー、じゃあしょうがないね」
「……諦めんのかよ……、ホント、お前って変な奴だよな」
諦めて俺がそう言うと、横山さんは頬杖をついてそう返して来た。
「別に、確かに校則違反だけど、それは先生が注意する事だし、俺自身はそう言う派手なの嫌いな訳じゃ無いからな」
まあ、校則ギリギリを攻めている叶恵の影響もあるのだろう。アイツも見た目は派手なタイプだ。
「……ははっ、委員長とは思えねー言葉だな」
横山さんは早朝からご機嫌な様で、そう言うと俺の肩をビシビシと叩いた。だから、少し痛いって。
しかし、どうなる事かと思ったが、学校にちゃんと来てくれている様で安心した。これならクラスでも印象は悪くならないはずだ。
見た目は派手で近寄り難い印象を受けるが、根はいい人なのも、時間を掛ければクラスに浸透するだろう。
「なあ、三笠。お前ってあのスーパーに来てたけど、あそこから家近いのか?」
「ああ、俺ん家あのスーパーから、歩いて5分で着くから……」
その後は、朝のHRが始まるまで、ずっと横山さんと喋っていた。
___________
「おーっす、点呼取るぞー」
横山さんとしばらく話していると、教室のドアが開かれ、担任の先生が気怠そうに入って来た。
「あ、もうHRか、じゃあ横山さん、また」
「え?、あ……おう、また」
少し名残惜しそうな顔をしていたが、横山さんもそう言い、俺は自分の席に戻る。
会話中はクラスメイトからヒソヒソと疑いの目線を向けられたが、俺は気にせず会話をした。彼女が俺に接する様子をクラスメイトに見せれば、横山さんに対する評価も変わると思ったのだ。
そして何より普段の授業でもあの飄々とした態度を取っていれば、自然と彼女に対する偏見も無くなるだろう。ここからは彼女次第だ。
……しかし、その考えが甘かった事を、直後に知る事になる。
「はい、秋山ー」
「はい」
担任がのんびりとした口調を崩さず、次々に点呼を取っていく。
次々に生徒が返事をする中、遂に横山さんの名前が呼ばれる。
「……次、横山」
「…………」
だが、横山さんからの返事はない。一瞬の沈黙が、教室を支配する。
慌てて横山さんの方へ顔を向けると、昨日と同じ様に、無愛想な表情で窓の外に顔を向けていた。
何でだ?ついさっきまで俺とは上機嫌で話していたのに……俺は少しばかりショックを受けていた。
「……聞こえなかったか?……横山」
そして、昨日と同じ様に、担任はもう一度横山さんの名前を呼ぶ。
「………ッチ、……はい」
そして、これまた昨日と同じ様に、横山さんは舌打ちをして返事を返した。
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