第29話 凛
面白い人と出会った。名前は、三笠洋介。アタシのクラスの委員長だ。
アタシ、横山凛は、いわゆる不良のレッテルを貼られている。そりゃそうだ。派手な金髪に付けピアスに不登校。おまけに目つきも悪いと来れば誰だって警戒する。
今日は久しぶりに学校に登校した。結果は予想通り、腫れ物を扱う様な視線や陰口を言われた。
こんなものかと、朝から後悔した。自分で蒔いた種なのは自覚しているが、こうもあからさまだと、なんとも言えない苛々が募った。
「横山さん、ちょっといい?」
そんな時、アタシに話し掛けたのが三笠だ。最初は委員長だから仕方なくこうしてアタシに声を掛けているのだろうと、やはり腫れ物として扱われている様な気がして、全力で拒否した。
思えばその時は三笠の顔を一度も見なかったし、そのせいか、アイツの純粋な善意に気付かなかったのかも知れない。
そして、夕方のあの事件。弟の翔太が近所のスーパーで迷子になった。子供と言う生き物は、本当に予測の出来ないもので、なるべく安いお肉を選ぼうと精肉コーナーを見ながら数分目を離した隙に、いつの間にか姿を消していた。
「えっと、……横山さん……だよね?」
そして、衝撃の再会。人生で1番肝を冷やした瞬間だった。
朝に最悪の態度を取ってしまったクラス委員長が、目の前で翔太の面倒を見てくれていたのである。
その時は一刻も早くその場から立ち去りたかった。
しかし、大誤算だったのは翔太が三笠に懐いた事。その手前、三笠を無下にする訳にも行かない。
結果、なし崩し的にいつも買い物の帰りに翔太と寄る、近くの公園にアイツも来た。
そこで、初めて三笠と会話らしいやり取りをした。
三笠洋介は、何というか他の私にガミガミ言ってくる大人達とは違う様に思えた。
1年の頃も、2年生になっても担任の口から出て来たのは"出席日数が足りない"だの、"このままじゃ留年する"などの事実的な理由をぶつけて叱るのみ。
面倒臭いと思っているのは、態度ですぐ分かった。
しかし、三笠は違った。
アイツは先述の担任みたいに、小言を言う事は無かった。寧ろ私に近づいて来て、ブレザーが暑いがどうの、弟が居るのが意外だっただの、どうでもいい話をするばかり。
しかし、それが何だか心地良かった。
最近は会う人間全てに小言を言われる事が多かった為か、自然体で分け隔てなく接する三笠に変な安心感を抱いたのだ。
この人は他の人間と違う。
そう確信したのは、今朝アタシに話し掛けた理由を聞いた時だろう。
アイツは、『クラスメイトの横山さんを見る視線に、イライラしたから』と言った。
訳が分からなかった。三笠自身がそんな態度を取られた訳でも無いのに、アイツは自分の事の様に、アタシと同じ感情を抱いてくれたのだ。
超ド級のお人好し。善意で動く、もはや絶滅危惧種の人間。
だからこそ、アタシは三笠洋介と言う男に、興味を持った。
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