第26話 叶恵


 「やばい。まただ……」


 昼休みの教室で私、和泉叶恵は非常に焦っている。理由は無論、私の幼馴染。

 また洋介の悪癖が出た。不登校のクラスメイトの事を、私に聞いて来た。

 人が良すぎると言うのも、ここまで来ると脅威である。

 危惧していた事が、もう起こってしまうとは。


 三笠洋介は面倒見が良い。ダメな人間が居たら放って置けないタイプ。こう言っては失礼かも知れないが、不良である凛ちゃんは洋介と相性ばっちしなのだ。

 そして、この様な事は一度や二度では無い。彼はその性格から、クラス委員などのまとめ役を任される事が多々ある。

 すると、その立場とダメな人間を見過ごせないと言う性格から、問題児の面倒を任される事が多いのだ。

 ……つまり、そこで洋介にお節介を焼かれて、惚れる女が出始めるのである。


 「……何難しい顔してんの?叶恵」


 私の焦りががあまりにも表情に出ていたのか、怪訝そうな顔をして優花里ちゃんにそう聞かれる。


 「……私も、不登校になろうかな……」


 「はぁ!?、な、何!?何か悩みでもあるの!?相談するよ!?」


 私の深刻な表情から出た物騒な言葉を聞いて、優花里ちゃんは慌てて心配して来る。

 恐らく何か大きな悩みでもあるものだと勘違いしているのだろう。……いや、私にとっては大き過ぎる悩みであるのだが。


 「優花里ちゃん、凛ちゃんの事知ってるよね?」


 私がそう聞くと、優花里ちゃんは意外そうな顔をした。


 「え?ああ、横山さんの事?まあ、知ってるけど……もしかして、彼女のトラブルに巻き込まれたとか!?」


 優花里ちゃんは前のめりになって、私に詰め寄って来る。

 彼女も凛ちゃんと去年同じクラスだったので面識がある。何か悪いトラブルに巻き込まれたものかと思っている様だ。


 「違うって。……実はね……」


 そして私は、事の経緯いきさつを、優花里ちゃんに話し始めた。



 ___________



 「……なーんだ。そんな事か」


 「そんな事じゃ無いよ!大問題でしょ!?」


 ここに至るまでの経緯を包み隠さず話すと、優花里ちゃんから拍子抜けだと言うような返事が返って来た。

 もっと親身になってくれると思ったのに。心外である。


 「ってか、まだ一言、二言、話しただけなんでしょ?そんな心配する事もないんじゃ無い?」


 優花里ちゃんは楽天的にそう言うが、洋介の面倒見の良さを甘く見てはいけない。


 「ふっ、甘いね優花里ちゃん。洋介のお節介度は、実家のおばあちゃんに匹敵するんだよ……」


 「……何でちょっと自慢げそうなのよ……」


 私が自慢げなのはともかく、これから何かしらの対策はしなければならない。

 どうやって洋介の目をこちらに向けようか……今日が部活で洋介の家に行けない事が実に痛い。


 「はぁ、そんな心配なら、さっさと告白しちゃえば?」


 すると、心底呆れた表情で優花里ちゃんはそう提案して来た。


 「それが出来ないから悩んでるんだよ!」


 それに対し。私は食い気味に反論する。幼馴染と言う特殊な環境が、軽々しく告白出来ない原因なのだ。しかし、優花里ちゃんは困ったような顔になった。

 何だ?私の気持ちをわかってくれる人は居ないのか?



 「……ホント、アンタって面倒臭い性格してるわよね」


 「うぐぅっ!!!」



 そして、図星を突く様な優花里ちゃんの発言に、私は大ダメージを受けて断末魔の様な声を出し机に突っ伏す。


 自分のこの面倒な性格は自覚しているが、こうも正面から言われると、来るものがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る