第24話 洋介


 「横山さん、ちょっと良い?」


 「………」


教室に戻り、横山さんに話しかけるが、返って来たのは無視。はっきりと言ったので聞こえてない筈もなく、完全に無視されている事は分かった。


 「……返事くらいはしてほしいかな」


 苦笑いになって俺はそう言う。態度の悪さには何か理由があるのかもしれないが、礼儀として返事ぐらいはして欲しいものだ。


 「……ッチ……」


 そしてこの舌打ち。最悪な返事が返って来た。

 もうこれはどうしようも無いなと思い、俺は勝手に話を続ける。


 「うーん、そうだなあ。俺、あんま横山さんの事知らないんだけど、取り敢えずは話してみない?」


 「………うっせーな」


 心底鬱陶しそうな顔をする横山さん。しかし態度は最悪だが、避けられる様な事は今のところされていない。


 「最近暑いよねー。俺も横山さんみたいにYシャツ一枚になりたいんだけどさー。立場もあるから中々ブレザー脱げないんだよね」


 「………ッチ、ウザい」


 すると、俺の話を聞くのがウンザリしたのか、もう次の授業が始まると言うのに横山さんは席を立ち、教室から出ていった。


 「……ありゃ、ちょっと距離詰めすぎちゃったかな」


 中々に心を開いてくれない様で、俺は教室から出て行く横山さんの背中を見つめながら、苦笑いになるのだった。



 「………ありがとねー、三笠君。本当なら同性の私が行かなきゃいけないとこなんだけど……」


 すると、今度は後ろから谷川さんがそう言って近づいて来た。

 俺だけに横山さんの相手をさせたのが引っかかるのか、申し訳なさそうな顔をしている。


 「まあ、しょうがないよ。ちょっと近寄り難い雰囲気出してたし」


 あの目つきで態度が悪ければ、誰だって近付きたくは無いだろう。


 「1年生の頃はちゃんと真面目に学校に来てたんだけどね。髪も金髪じゃ無くて黒かったし」

 

 「そうなの?」


 「うん。同じクラスだったけど、皆んなとも仲良くて和泉さんと並んでクラスの中心的な存在だったんだよ?」


 これは驚いた。と言う事は、横山さんはどこかのタイミングで、グレてしまったと言う事だろうか?

 確かに目つきはキツかったが顔立ちは整っていたので、クラスの中心にいてもおかしくは無いだろう。


 「それがいつからか、いきなり学校に来なくなっちゃって……一年の3学期は殆ど見かけなかったかな。急に変わっちゃったから、皆んなも困惑して誰も話しかけられなくて……」


 しかも、急な変わりぶりだったらしく、谷川さんは申し訳なさそうにそう言った。


 「……何か、大変な事でもあったのかなぁ」


 「……それが分からないんだよね。彼氏に酷い事されたとか、部活で何かいざこざがあったとか、そう言う噂はいっぱい耳にするんだけど……」


 谷川さんは目に見えて落ち込み、暗い声でそう言う。

 彼女は去年もクラス委員長。目の前でいきなり変わってしまった横山さんをどうにか出来なかった事に、責任を感じているのだろう。



 「うーん、話した感じ、そんな悪い人には思えなかったんだけどなー」



 俺は、彼女の座っていた席を見ながら、そんな事を呟くのだった。

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