第二章

第23話 洋介


 ゴールデンウイークも明け、暖かかった春の気候は、少しばかり夏の兆しが見える程暑くなって来ていた。

 衣替えまではまだ少し期間があるので、学校指定のブレザーを脱ぐわけにも行かず、日向に居れば少し汗ばまんでしまうほどだ。

 俺もクラス委員長と言う名目がある以上、暑くてもブレザーを脱ぐわけには行かない。


 「横山さんだ……」


 「うわ、珍し」


 そして、朝の我が2年4組の教室では、いつもと違う雰囲気を纏っていた。

 窓際の席に太々ふてぶてしく座り、窓の外を眺める1人の女子生徒。こう言うのを、ギャルと言うのだろうか。


 彼女の名は、横山よこやまりん


 校則違反上等の金髪と付けピアス。肌は白く、目つきの鋭さは、近寄り難い印象を受ける。

 彼女は、新しいクラスになってから3度程しか顔を出して来なかった。4月の後半に至っては、恐らく一度も登校していない。

 クラスメイトのザワつきも、そんな彼女への物珍しさから来るものだった。


 いわゆる、不良と言うやつである。


 「……ッチ……」


 横山さんが教室全体に聞こえる様な大きい舌打ちをすると、彼女をチラチラと見ていたクラスメイトは、一様に視線を逸らす。

 まあ、気持ちは分からなくもないが、それは自分で蒔いた種だぞ?


 ____ガラッ______


 すると、そのタイミングで担任の先生が入って来た。皆、朝のHRの為にそそくさと自分の席へ戻って行く。


 「はい、点呼とるぞー。秋山」


 「はい」


 いつも通りの朝の点呼だが、今日は妙に緊張感があった。理由は無論、横山さんである。彼女の点呼の順番が近づいて来るたび、その変な緊張感は増していった。


 「……横山」


 「…………」


 担任が横山さんを呼ぶが、彼女からの返事は無い。相変わらず太々しく、窓の外を見たままだ。


 「聞こえなかったか?、横山」


 「……ッチ、はい」


 担任がもう一度聞き返すと、舌打ちをして不服そうに返事を返す。

 それを担任は注意する事もなく、点呼を続けていった。


 


 「三笠、ちょっと来てくれ」


 「はい?」


 点呼が終わると、担任から廊下に来る様呼び出された。

 ……まあ、要件は大体想像は出来るが。

 廊下に出ると、担任はバツが悪そうに頭を掻く。


 「あー、その……横山なんだけどな。提出してないプリントとか、出席日数とか、色々問題があるんだ。お前の方から何となくで良いから、言っといてくれないか?」


 「……先生から伝えれば良いじゃないですか」


 まあつまりは、このクラスの面倒事を俺に押し付けたい訳である。

 担任として、教師としてどうかとも思うが、この様子だと無理っぽそうだ。


 「俺、次の授業の準備しなきゃ行けないんだよなー。頼むよ、三笠。こんな事頼めるのお前しか居ないんだ」


 そう言い、担任とは思えない情け無い態度で、俺に頭を下げて来る。

 どうも理由付けが無理矢理だが、恐らく放っておいても解決しそうに無いので仕方がない。


 「……はぁ、分かりましたよ。その代わり、生活指導とかは自分でやって下さいね?」


 「すまない!恩に着るよ!」


 担任はそれだけ言うと、そそくさとその場を去って行った。


 ……全く、これではどちらが立場が上なのか分からない。



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