第13話 洋介


 初対面の面子めんつでのカラオケというのは、妙に気を使う。

 お互いに何も知らないが故、相手の歌が下手だったとしても安易にバカに出来ないし、お互いに気を使う為、選ぶ曲でさえ誰でも知っている様な、メジャーな曲になりがちだ。


 「おー、三笠君、歌上手いねー」


 「センキュー、センキュー」


 気の抜けた谷川さんの褒め言葉に対し、俺も気の抜けた返事をする。

 そう言う意味では、まだ自分達は幸運だったのかも知れない。

 自分の入った部屋には4人。俺と、谷川さんと、篠塚さん。そして篠塚さんと同じクラスのもう一人の委員長、八嶋やしま君だった。

 知り合いがいると言うのは、大変心強いものである。


 「おー!三笠っち歌上手いねー!美声って感じ!!」


 そして、この部屋は、八嶋君が明るいお陰で助かっている。彼は底なしに明るい性格をしており、何というか、喋り方が少しチャラチャラしている様な印象を受けた。

 しかし身なりは髪を短く切り揃えて、服装もちゃんと着こなしているので、この喋り方は元々の性格なのだろう。

 彼のお陰で、初対面カラオケでありがちな、お通夜みたいな雰囲気は避けられている。


 「三笠っちー!俺とデュエットやってみよーぜー!!」


 「うん、いいよ」


 距離感の詰め方が爆速なのが人を選ぶかも知れないが、俺自身は悪い気はしない。

 しかし、篠塚さんとは真反対な印象だ。

 正に水と油。こんなに違って上手く行くものなのだろうか?


 「次は小百合ちゃんだよー?」


 「う、うん!」


 すると、今度は谷川さんにマイクを差し出され、緊張気味ながらも、篠塚さんはマイクを受け取る。

 

 「おぉー……」


 その光景を見て、俺は感心する様に唸る。すると、八嶋君が不思議そうな顔をしてきた。


 「?、三笠っち、何で感心してんの?」


 「いや、人って成長するもんだなーって」


 俺はまるで歳の離れた親戚の子を見る様な目付きで、篠塚さんを見てそう言う。

 一年生の春、篠塚小百合と言う少女は、出会った当初はとにかく気の弱い少女であった。


 "あ、あの……その……し……えっと……篠塚……です……"


 クラスメイトの前は愚か、俺の前でも緊張してまともに喋れず、どれだけ優しく話しかけても、声はどもり、あがり症は治らなかった。


 "篠塚さん、まずは大きい声出してみよっか?"

 

 このままではダメだと、人前でも堂々と喋れる様に彼女に自信を持たせようと四苦八苦したのは良い思い出だ。

 色々とアドバイスをしたり、偶にスピーチの練習もさせたりして、徐々に自信を持ち始めていたのを憶えている。


 「あなたがくれたー♪」


 そして今は人前で歌も歌える。まだ緊張気味で少し声が震えているが、あの頃を思うと大した進歩だ。


 「おー、小百合ちゃん!上手いじゃん!!」


 「えへへ、ありがと。美也ちゃん」


 篠塚さんが歌い終わると、谷川さんと八嶋君から拍手が湧く。俺も賞賛の心で拍手を送っていた。

 送られている本人はなんだか恥ずかしそうな顔をしている。

 そして谷川さんとはもう名前で呼び合うほど打ち解けたらしい。


 「おーし!、三笠っち、次はデュエットだ!!」


 すると、今度は八嶋君がマイクを俺に渡してきた。

 モニターには八嶋君が入れたのか、聞いたことのない題名の曲が映し出されている。


 「俺、この曲知らないよ」


 どうやら八嶋君は、早とちりな性格でもある様だ。

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