第12話 洋介


 「びっくりしたー。どうしたの?田中君」


 すると、委員会の用事から帰ってきた谷川さんに、驚いた顔でそう聞かれた。恐らく廊下を全力ダッシュする田中とすれ違ったのだろう。


 「……まあ、なんて言うか、青春って奴だよ。ちょっと辛めの失敗だったけどね」


 「?」


 流石に内容を言うのはどうかと思ったので、それとなしにぼかしておく。

 しかしそれでは伝わらなかったのか、谷川さんは首を傾げていた。


 「まあ、いいや。それより三笠君、この後暇?」


 すると、谷川さんからそんな事を聞かれる。確かにこの後の予定は無いが……


 「無いけど、委員会?」


 「うーん、まあ委員会っちゃあ、委員会かな?。3組の委員長の大島さんがね、『もう4月も終わりでクラスの決め事も落ち着いて来たから、各クラスの委員長同士で親睦会でもしないかって』誘って来てくれたんだ」


 成る程、まあ、あるあるだ。去年も俺はクラス委員だったが、同じ様な事をした覚えがある。


 「良いけど、何やるの?」


 「大島さんはカラオケでも行こっかって言ってたけど……」


 カラオケか。確かに最近行ってなかったし、何より他クラスの委員長達と話すのは良い情報交換になるかも知れない。


 「良いよ、いい機会だし、参加しようかな?」


 「了解。じゃあ、大島さんに伝えておくね」


 谷川さんはそう言うと、スマホで文字を打ち始める。

 カラオケなんて久しぶりだ。音痴では無いが、下手な歌で笑われない為にも気合を入れて行こう。



 _________




 「今日は委員長の会に集まっていただきありがとうございますー!」


 場所は変わり、今俺は駅前のカラオケ店の前に居る。人数はそこそこ集まったのか、10人を超えていて、幹事である3組の女性委員長の大島さんが声を張っていた。


 「2年生になってから1ヶ月。そろそろ慣れた頃だと思いますし、親睦会でもやろうと思いました!、今日は日頃の疲れを飛ばす様に歌いましょう!!」


 大島さんがそう宣言すると、周りから拍手が起きる。それに釣られて俺も拍手をした。

 どうやら生粋のリーダーシップ気質らしく、発言もハキハキとしていて、誰もが思う理想の委員長みたいな感じだった。


 「……あ、久しぶり。三笠君」


 すると、俺の左横から、女性の声が聞こえる。

 大島さんとは対照的で、声は小さく、自信のなさげな声色だったが、この声には聞き覚えがあった。


 「お、久しぶり。篠塚しのづかさん」


 俺に話しかけて来たのは、篠塚しのづか小百合さゆりと言う少女。

 小さな声と同じく身長も小さめで、眼鏡を掛けており、ストレートの黒髪を腰まで伸ばしている。

 溌剌はつらつとした大島さんに対し、こちらは物静かな優等生という印象の少女だ。


 「あれ?、三笠君の知り合い?」


 すると、今度は谷川さんからそんな事を聞かれた。


 「うん、一年生の頃に同じクラスで一緒に委員長をしてたんだ」


 なので篠塚さんとはこの様に面識がある。


 「こんにちはー、谷川ですー」


 「え、えっと、こんにちは。篠塚です」


 フランクに挨拶をする谷川さんに対し、篠塚さんは緊張の面持ちで挨拶を返す。

 相変わらずあがり症の彼女に少し苦笑いになるが、これでもマシになった方だ。

 去年の春先。彼女と出会ったばかりの時は、どもりすぎて何を喋っているのか分からなかった。

 それが今や親睦会に積極的に参加し、こうしてまだぎこちなさが、残るがちゃんと挨拶が出来ている。多少は感慨深くとなると言うものだ。


 「はーい!!じゃあ中に入りまーす!!部屋は3つ取ってるんで、バランスよく分かれて入りましょう!!」


 すると、大島さんから建物の中に入るとの号令が掛かった。


 「だって。行こうか?」


 「そうだねー」


 「う、うん」


 俺が行くようにそう促すと、二人とも頷き、カラオケ店の中に入って行った。


 


 


 

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