第7話 叶恵


 「おじゃましまーす」


 「はえーな、まだ5時前だよ?」


 三笠家の玄関先で洋介とそんなやり取りをする。家に行くまでに、他の人からこのクソダサい格好を見られないのかと言う疑問があるかも知れないが、私の家から三笠家までは歩いて1分とも掛からない。

 なのでこの様な絶望的ファッションでも大丈夫なのだ。

 ……まあ、家を出る前に周りに人が居ないか、何度も確認したが。


 「いいじゃん、いいじゃん。漫画の続きも読みたいし」


 「それが目的かよ」


 嘘は言っていない。確かにあのバトル漫画の続きは気になるが、それよりも洋介の両親が居ないと言う大チャンスを、1秒でも無駄にしたくは無いのだ。


 「それにまた半袖で来て、風邪引くって何回言ったら分かるんだよ」


 「あっははは、だから引かないから大丈夫だって」


 そして、やはり洋介は私の格好を見て心配そうに注意して来た。

 私はニヤける顔を誤魔化す様に大きく口を開けて笑い、ガサツさをアピールする。

 取り敢えずこの格好は成功の様だ。


 「はいこれ、お惣菜」


 そして、私はお母さんから預かったお惣菜の入ったビニール袋を洋介の前に差し出す。


 「お、ありがとう。ハンバーグだけじゃ足らないなって思ってたんだ」

 

 洋介はお惣菜を受け取ると、リビングの方へと向かう。私はそれに付いていく様に、靴を脱いで家に上がった。


 「こら、足で靴を揃えるな。みっともない」


 「へへっ、しゃーせんねー」


 こんなものはまだ序の口。今日はとことん洋介に構ってもらう日と決めているのだ。

 



_________




 夜ご飯までは、まだ時間がある。すると、いつも通り洋介の部屋に入り浸る事となり、今私はとあるレースゲームをしていた。


 「はあ!?、なんで洋介だけそんないいアイテム引くのよ!?」


 「日頃の行いだ」


 当初は漫画を読む予定だったが、それではお互いに無言になってしまう事が多い。

 別に沈黙が嫌と言う訳では無いが、今は話したい気分だった。

 なので今は洋介と一緒に話せる様に、ゲームの対戦をしている。


 「んー!!、もう一回!!もう一回!!」


 レースゲームでは彼が一位。私が中盤あたりの6位と言った結果で、納得のいかない私は頬を膨らませてもう一回対戦するよう抗議する。


 「いいけど、後一回だけな?そろそろご飯を作らなきゃ」


 あまりにも熱中し過ぎたためか、時計の時刻はもう6時半を回っていた。もう1時間以上もこのゲームをやっていたらしい。


 「あ、そっか。……分かった!じゃあこれでラスト!今度こそ洋介より先にゴールしてやる!!」


 コントローラーを強く握り、私がそう宣言すると、洋介も不敵に笑った。


 「はっ、ボコボコにしてやるよ」


 しかし、洋介は手加減する様子が無く、これまた全力で私を叩きのめそうとする。

 彼は普段はお節介で優しいが、ゲームの対戦となると容赦しないのだ。


 「はい、おつかれー」


 「ぎゃー!!なんでそこでアイテム使うの!!!」


 ……普段の優しさがゲームプレイでも反映されればいいのになあと、ボコボコにされながら私はつくづく思うのであった。

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