第3話 洋介
「おいっす洋介。待った?」
「いや、全然。部活お疲れ」
時刻は午後7時を過ぎた頃。玄関先では制服とも、部活動のスポーティーな格好とも違う、半袖短パンのラフな格好でやって来た叶恵に対して労いの言葉を掛ける。
俺の言った通り、風呂に入って来たばかりなのか、ほのかにシャンプーの香りがした。
「寒くないの?」
俺はこの時期には不釣り合いな格好の叶恵にそう聞く。彼女の格好は半袖短パン。時期はまだ5月にも入っておらず、夜の時間になると、長袖でも肌寒い時期だ。
「あはは、ちょっと。急いだからとりあえず、あるもの着てきた」
叶恵は後ろの頭に右手を当てて、うっかりと言った反応をする。
とりあえずでは無い。風邪でも引いたらどうするのか。
「風邪でも引いたらどうするんだよ。もっと体を大事にしろ」
「えー、大丈夫だって。私があまり風邪引かないの、知ってるでしょ?」
大分見当違いな反論をするが、それは違う。不用心な格好をして、要らない心配を余計に掛けるなと言う話だ。
「……とりあえず中入れ。そのままじゃ寒いだろ」
取り敢えずこのままでは風邪を引くので、家の中に入る様に促す。
「はーい、お邪魔しまーす」
しかし、叶恵は全く反省する色を見せない。寧ろいつもより上機嫌の様子で、いつも通り俺の部屋へと、2階へ上がって行った。
__________
「やっぱグレンが一番だよね。面倒見が良いし、ヒロインにも優しいし」
「はあ?、ダイルさんが一番だろ。あの寡黙で、仕事人みたいな雰囲気が良いんじゃねーか」
いつも通り、叶恵が俺のベッドで、俺が椅子に座りながら、今は叶恵が読んでいる漫画のキャラクターについて談義している。
叶恵はやはり少し寒いのか、毛布に包まって、芋虫の様な格好で漫画を読んでいた。
「分かって無いですなー。女の子はこう言う感じで直接的に優しくされると、コロっといっちゃうもんなのよ」
「そんな軟派な奴のどこが良いんだ。黙って奉仕するのが、男の甲斐性ってもんだろ」
その漫画はバトル漫画なのだが、キャラクター、一人一人が魅力的に描かれており、キャラ自体にファンが出来るような作品だった。
なのでこうして自分の一推しのキャラクターを喋ると、ぶつかり合う時がある。
この漫画を義人に貸した時は、それはもう熱く語り合ったものだ。
「えー?じゃあ、洋介はグレン嫌い?」
「そこまでは無い。グレンはグレンで主人公に恩を感じて最大限サポートしてるからな。そこは好きだぞ」
「おー、やっぱそこだよねー。分かってんなら、今すぐ一推しをグレンに変更しなさいな」
「バカ言え。俺の中での男の理想はダイルさんなんだ」
俺と叶恵は、漫画の趣味嗜好がかなり一致している。まあ、俺は子供の頃から少年漫画を読んでいたので、それに叶恵が影響されたと言った方が正しいのだが。
「あー、喋ったら喉乾いちゃった。洋介ー、お茶持ってきてー」
すると、いつもの様にお茶を持ってこいと、毛布に包まれた叶恵はそう言う。
「はいはい。あと寒いんなら上着着ろ。そこのジャージ着て良いから」
飲み物を毛布にこぼされたらたまったものでは無いので、取り敢えず上着を着るように促す。
しかし、今日は好きな漫画について談義が出来たので、お茶自体は持ってきてやろう。
叶恵の言われた通り、俺は席を立っていつも通りお茶を汲みに一階へと降りて行った。
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