第2話 洋介


 「おお、すまんな三笠。わざわざ持って来てもらって」


 「いえいえ、ではこれで失礼します」


 プリントの束を担当教員に渡すと、俺は一礼して職員室を後にする。

 委員会の仕事は、名前だけは立派だが、その実、こう言う地味な仕事が多い。最初は面倒くさかったりもしたが、慣れればこれだけで内申が良くなると得をした気分にもなる。

 後は帰るだけで、職員室と昇降口は別棟な為、途中の渡り廊下を渡る。ふと、窓の外を見やると、運動部がグラウンドで走り回っている光景が見えた。

 帰宅部の自分には縁の無いものだなと、少し苦笑いになる。


 「お、叶恵もやってるな」


 すると、渡り廊下からも近いテニスコートで、幼馴染の姿も目に入った。

 遠目なので表情は分からないが、真剣に打ち込んでいる様に見える。

 叶恵はテニス部に所属している。運動神経の良さは昔からで、中学時代には何処かの大会で優勝もしていた。

 美人で運動神経も良くて社交的。これだけ聞くとどうして彼氏が出来ないのかが謎だが、彼氏が欲しいと言う言葉は一度も聞いた事がないので、作る気が無いのだろう。

 たとえ作ったとしても、長続きするのかは微妙だが。


 「……帰るか……」


 一通り見終わると、俺は再び渡り廊下を歩き、昇降口へと向かう。運動は出来ないが、見るのは好きだ。

 そう言う事もあってか、多少の満足感と共に、帰路に着くのだった。



 ____________




 家に帰り、自分の部屋に着くと、早速だが、今日出された宿題に取り掛かる。期限は来週までだが、こう言うのは出された日にやらないと気が済まないタイプなのだ。

 

 ____ブーッ_______


すると、自分のスマホから、バイブ音が鳴った。大体察しは付くのだが、画面を開いてみると、やはり叶恵からの通知が来ていた。


 『漫画の続き気になる。部活終わったら行くわ』


 一言、女子とは思えない全く飾りっ気の無い内容に苦笑いになる。普通女子なら絵文字やら顔文字やらをたくさん使う筈だろうに。

 しかし和泉叶恵と言う女は、こう言う男友達でやる様な、淡白な通知を送ってくるのだ。

 

 『部活の後なら、ちゃんと風呂入ってから来い』


 そんな叶恵の通知に、俺はそんな内容を返す。女子相手にそれはどうなのかと思うかもしれないが、相手が相手だ。

 それに、これぐらいのやり取りなら毎回している。

 

 『おっけ』


 そして、これまた一言、淡白な返信が来た。


 今日もベッドを占領されるんだろうな。


 俺はそんな事を思いながらスマホを閉じ、今日出された宿題に顔を向けるのであった。

 

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