第19話
振り下ろした薪から、ぐちゃりと嫌な感触が伝わる。持ち上げるとべったりと血や肉片といった物が付着しており、思わず顔を顰めた。
頭を潰されたゴブリンの身体は、力を失ったように前のめりに倒れる。一撃で仲間を倒された状況を目にしても――
人間の間ではオスは食料、メスを苗床にすると恐れられているようだが、実は違う。
ゴブリンは対象を――食料も、性欲をぶつける相手も選ばない。
食えれば何でも食うし、
欲望に忠実で、欲望のまま行動する。
自分の欲望を満たす事しか考えない害獣。それがゴブリンだ。
今、俺が処分しているゴブリンは食欲ではなく性欲を満たす事しか考えていない。きっと頭の中では俺を凌辱しているのだろう。
その光景に一瞬
ゴブリン共の頭を潰す。潰す。潰す。潰す。薪が汚くなったので変えて潰す。潰す。潰す。潰す――うわ、飛んだ血が手に着いた! 臭いしきたねぇ!
「最悪だ……」
テンションがガタ落ちになりながら、潰して回ると段々とゴブリン共の勢いが無くなり、やがて向かってくる者がいなくなった。全滅させたようだ。
大きく溜息をつきながら地面で血を拭うが、臭いは取れた気がしない。まぁ、そもそも周囲がゴブリンの死体だらけで臭いんだが。後で臭い消し撒いておこう。
家を見ると、窓から聖女が覗いていたので「もういいぞ」と呼びかけると、少ししてから玄関から姿を現した。
「これはまた……凄い光景に……酷い臭いですね……」
聖女も流石に顔を顰めていた。
「これがゴブリンだ。知能は無い本能だけで動く。何でも食うし何でも犯す。馬鹿みたいに数は増えるし、肉は食えないし骨は使い道が無いっていう殺しても何も残さない。害しかない害獣だ。人間の間じゃ俺達と同じ、魔物扱いされてるみたいだけどな」
「さん付けは不要、というのはそういうことですか」
納得したように聖女が頷く。
「コイツら繁殖力が凄くてな。1体見かけたら100……いや、500……1000か? まぁそれくらいはいると思えって言われてる。
――この森にはかつて『トレントの悲劇』という事件があった。
発情したゴブリン共が
目の前で愛する者を汚され、助けたくても動けず、更に自分も尊厳を傷つけられる。
「それはまた、恐ろしいですね……」
「見かけたら増えない様に処分はしているんだが、どうしても絶滅は出来ない。コイツら飢えたら仲間同士で殺し合って食う癖に、腹が満たされると発情して仲間同士で犯し合って増えるときやがる」
本当どうにかならないものか、と溜息を吐く。誰だよこの森に連れ込んだ奴。
「それにしても数が多い。さっきも話したように冒険者が入り込んでるのが原因かもな。殺して餌にして、腹が満ちたから発情して苗床にしてるんだろ。何処かに巣があるだろうから、探して潰さないと」
ふと、何か思いついたのか聖女が俺に聞いてきた。
「生き物であればオスだろうと……ということは……オークさんも?」
「……ああ、例外は無い」
その質問で、嫌な事を思い出してしまった。一瞬だが顔に出てしまったようで、聖女が申し訳なさそうな表情になっていた。
「あの、何かあったのですか?」
「……昔、仲間がやられた事がある」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます