第20話
◆
――昔の話だ。森の所々でゴブリンが見られるようになった時があった。
あまりにも頻度が多いから、何処かで繁殖してるんじゃないか、という話になり巣を潰す事になった。
各種族で巣を探し、見つけたのは俺達オークの群れだった。
何体かで組んで巣を探していたんだが、その内1組が偶然巣に行きあたった。
そこは良かったが、運の悪い事にゴブリン共に気付かれた。
想像以上にゴブリン共の数が多く、全滅を防ぐために勇敢なオークの1体が囮になった。「ここは俺に任せろ! お前たちは仲間を呼んできてくれ!」と。
その場を離れた奴らはすぐ助けを呼んで巣に戻ってきた。俺も巣の討伐に参加していて、一緒に行ったんだ。
それから、ゴブリンはあっという間に討伐された。
囮になった奴も見つかったよ――ゴブリンに、汚された姿でな。
逃げた奴らも急いだんだが、遅かったんだ。数に押されて、囚われて、好き放題されて……本当に、酷い有様だった。
ゴブリンはあっという間に種を植え付ける。囮になった奴はもう駄目だった。
奴は自分から言った――「殺してくれ」ってな。
ゴブリンに種付されたらもうどうしようもない。そう時間をかけずに、ゴブリンの子を産むことになる。止める手立てはない。それこそ、殺すしか。
――そいつは良く知ってる奴だ。勇敢で、それでいて優しくて、何時か家庭を持つのが夢だと語っていたよ。
俺が首を落とす事になった。他に誰も出来なかったんだ。だから、俺がせめて一思いに、な。
最後に、奴は笑って、泣きながら言ったんだ。
「――ちゃんとしたメス相手に、子作りしたかったなぁ」って。
◆
「あの時のアイツの顔が、ゴブリンを見る度に思い出すんだ」
語り終えると、そっと何かが手に触れた。見ると、聖女の手だった。
「……その方は、本当に救えなかったのですか?」
「ああ、無理だ」
――オスがゴブリンに種付されると、尻から産むことになる。
大体ショック死を起こすし、運よく生きていてもその後の生活は悲惨だ。
更に何体ものゴブリンを孕んでしまった場合、身体を食い破って出てくる。苦しむ前に、殺してやるのが慈悲という物だ。
メスは元々子供を産む事が出来る為か、命は落とさないが尊厳という物を殺される。精神が壊れ、殺すしかなくなった種族を数多く見てきた……
「まぁそういうわけで、ゴブリンには絶対近づくな。見かけたら見つからない様に全力で逃げろ、いいな?」
そう言うと、聖女は俯いたまま俺に言う。
「さて、この後コイツら焼かないとな……放っておいても臭いだけだし――ん?」
ふと、見回すと倒れているゴブリンの中に、頭が潰れていないのがいた。頭を潰すのが手っ取り早いので全部そうしたはずなのだが、身体にも傷は無いようだ。
「どうしました?」
「いや、ぶっ倒れてるだけのゴブリンが居て――いや、死んでるな」
近寄ってみると、仰向けになっているが死んだふりなどではなく既に事切れているようであった。
独特の臭いに思わず顔を顰めるが、その臭いの元は股間から発せられているようである。
「え、コイツ果てて死んでる? 何でだ?」
「どうかしました?」
「いや、良く解らないんだが……」
口の端から涎を垂らし、何処か恍惚とした表情で死んでいるゴブリンを前に、俺は首を傾げる事しかできなかった。
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