第18話

「そういえば」


 あまり勇者の話はしたくないのか、聖女が話題を変えようとする。少し強引な感じだが、あまり嫌な思いさせるのも良くないので、乗る事に。


「ゴブリンさんが増えている、というのはどういう事なのでしょうか?」

「あー……その前に聞きたいんだが、ゴブリン見た事ない?」


 俺が問うと、聖女は頬に手を当て思い出す仕草を見せる。


「……そう言われてみると。話自体は聞いた事ありますが」

「人間の間じゃゴブリンってどういう風に言われてる?」

「そうですね……」


――聖女曰く。


 ゴブリンとは狡猾で邪悪な魔物である。

 子供程の大きさで、1体としての個体の強さは大したことは無い。

 脅威なのは、群れで襲ってくることである。1体1体、何事も無く対処できていられるのは最初の内。倒されても怯むことなく正面から、左右から、背後から、何処からでも、獲物とみなした物にただただ襲いかかる。

 ゴブリンの真の武器は、数の暴力なのだ。倒しても倒しても減らない数にやがて疲弊し、いつの間にか囲まれてしまい犠牲になってしまう冒険者は多い。雑食であり、冒険者からただの血と肉となった者犠牲者はゴブリンの血と肉食料へと変わるのだ。


「えっと……他には魔法を使う、群れを統率するといった特殊な個体も存在して……それと、女性が遭遇した場合は即座に逃げろ、ということでしょうか。ゴブリンは性欲が旺盛な事も有り、女性と見たら子を成す為の道具にする、という事が多いそうですが」

「あー、そんな風に言われてるのね。てかメスを苗床に、って俺達オークと一緒じゃねぇか」

「違うのですか?」

「んー……合ってる所もあるし、違う所もあるかな。1体の強さは大した事ない、ってのは正しい。群れで襲ってくる、っていうのもまぁ正しいかな。はぐれて1体でうろついてる奴もいたりするけど。ああ、魔法使う奴とか群れの頭とか、後はキングとかもいる」

「では、違う所というのは何でしょうか?」

「ああ、それは――」


 その時である。外に気配を感じた。


「どうしました?」

「外に誰かいるな。1体じゃなくて、何体も」

「え……ま、まさか冒険者……も、もしかして……ゆ、勇者!?」


 聖女が顔を青くする。


「いや、そんなんじゃないな。多分ゴブリンだろ。こんなとこまで来やがったか」

「え、ゴブリンさんですか? オークさんに御用事とか?」

「ま、用事といったら用事なんだろうがな。ああ、さっきも言ったけどアイツらにさん付けは不要だ」


 そう言うと聖女は首を傾げる。


「オークさんとは種族同士仲が悪いのですか?」

「悪い、というかなんというか、な」


 そう言って俺は立ち上がると、見回して武器になりそうな物を探す。普段使う剣という名の鉄の塊は使わない。アイツら相手には相性が悪い。他の包丁やナイフといった刃物は……汚くなると嫌だから止めようか。お、薪があるか。まぁこれでいいだろう。アイツらには十分だ。

 何本か薪を手に取り、玄関へと向かう。


「丁度いいから窓から見てな。ああ、絶対外には出るなよ? 汚いモノ、見たくないだろ?」

「汚いモノ? 特に血や臓物は抵抗はありませんが……あ、ニオイとかでしょうか?」

「それもあるが、まぁ戻ってきたら詳しく教える」


 再度「絶対出るなよ?」と念を押し、俺は外に出る。


 ――外には、思った通り小さく醜い奴らゴブリン共が俺の家を見ていた。

 扉から出てきた俺を見て、ゴブリン共が涎を垂らしながら下衆な笑みを浮かべる。


 オークと種族間仲が悪い。

 まぁ間違いじゃない。正しくは、仲の良い種族なぞ存在しないというとこだろうか。

 魔物のどの種族も、ゴブリンを忌み嫌っている。奴らはまず話が通じない。話すというような知能が存在していない。

 ゴブリンは性欲旺盛で、人間のメスを見ると犯して苗床にする。

 ここは間違っている。

 性欲旺盛なのは確かだが、それは人間のメスばかりが対象ではない。


 ――何も纏っていない、ゴブリンのその股間は滾って苛々して御立派になっていた。

 ゴブリン共の視線はオスのオークに向けられている。その視線は腹を満たすモノ食材を見るそれではなく――欲望を満たすモノ股間の苛立ちをどうにか発散してくれる対象を見る目。


 ――ゴブリンは性欲旺盛である。それこそ、穴があれば何でもいいというレベルで。

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