第17話

「ゴブリンさんと冒険者が増えている、と?」


 帰宅して変態ユニコーンから聞いた話を教えると、聖女は首を傾げながら言った。


「ゴブリンに『さん』はつけなくていいぞ。てか、冒険者は呼び捨てなのか」

「だって冒険者は人族ですから」

「どれだけ人族嫌いなんだよ……まぁ魔物達もお前の事言えないけどよ」

「そうですねー、軽く滅ぼしたいと思うくらいには?」

「怖いんだけど」


 聖女は笑顔でそんな事を言ってのけた。顔こそ笑っているが、目は笑っていない……というか濁っているような……聖女って呼んでいいのかコイツ?


「と、いうのは冗談です」

「冗談にしちゃ目が真剣だったけど」

「嫌ですねぇ。良い人だっているのは知ってますから。ほら、村の方々とか。ただこう、冒険者とか王族とか貴族とか、後勇者とかそう言った類は本当滅んで欲しいと思ってますけど」


 ほほほ、と口元に手を当てて聖女が笑う。だから目が笑ってなくて怖いんだけど。


「お前魔王倒すとかでいろんな国旅してたって言ってたけど、マシな王族とか居なかったの?」

「いませんよ? 基本身体目当てでしたから。立ち寄ってトラブル解決して、その後に王様から褒美とか言われるんですけど『わしの妾にしてやろう』とかそんなのばっかりでしたから。貴族なんかも美辞麗句並べ立ててましたけど、完全に私を孕ませる事しか考えてませんでしたね。冒険者はもっとひどくて、野営で隙を見せると物陰に連れ込もうとしたりとか、下半身でしか考えられない方ばかりでしたよ。どれだけ潰したか……」

「お、おう……」


 遠い目で指を折りながら数を「ひーふーみー」と数える聖女。あの、潰したって何をなんでしょうかねぇ?


「勿論ナニをですよ?」

「オークの思考読まないで?」

「ふふ、それで何の話でしたっけ……ああ、そうそう。そういう所は勇者も冒険者と変わりませんでした……いえ、変にプライドが高い分もっと厄介でしたねぇ……」

「勇者って大体自分の国の姫とかと番になるって聞いてたんだが?」


 変態ユニコーンから聞いた話だがな。『姫とか絶対処女だろ? 勇者とかゆるせねぇ』と勝手に勇者絶対殺す獣と化して騒いでたわ。まぁいつもの事だが。


「ああ。王族がという力を自分の国に取り込みたいのと、勇者は勇者で権力を欲したのとで、その辺りの利害が一致して報奨として王が自分の娘を差し出した、っていう話が昔あったそうなんですよ。で、それが美談として伝わり、何時の頃からか『勇者と姫』という慣習カップリングとなった、と。聖女側室体のいいはけ口、といった扱いです」

「えっと、まともな勇者とかいなかったのか?」

「今まで会った中ではいませんでしたけど――あ」


 ふと、何かを思い出したように聖女は声を上げると、眉間に皺を寄せる。


「どうした? その様子じゃいい思い出じゃなさそうだが」

「ええ……よその国なんですが、本当に厄介な勇者が居まして……何て言いますか……『自分こそが神に認められたであり、そんな真の勇者自分を神に愛された存在である聖女が愛する事、そして結ばれる事は確定している』と信じ込んでいる者が……」

「何それ怖い」

「我が国の勇者とそれで揉めまして……厄介な事に、その勇者は実力はあったんですよ。その時は国が間に入って何と無かったんですけど……」

「その真の勇者(仮)がもしもお前が生きている、って知ったら?」

「探すでしょうね、絶対……何故、聖女は少ないのでしょうか……勇者や姫の様に数多くいれば良いのに……」


 聖女が顔を顰め、頭を抱えた。


――『勇者』と『聖女』や『聖人』は、神と呼ばれる存在に認められる事で与えられる特殊な称号である。

『聖女』と『聖人』は神に愛され、特別な力が無ければ与えられることは無い。教会が厳しく判断し、与えられる者は極僅かだ。

 それは『勇者』も一緒であった――はずなのだが、何時の頃からか政治的な理由か、国の長が与える称号となった。

『特別な力』は単なる『腕力や権力』へと判断基準が変わり、今や各国に最低1人は存在するレベルになってしまった。

――そんな中本当に特殊な力を持った者が現れる事があるのだが、その者は『真の勇者』と呼ばれるようだ。


「私には既にオークさん愛する夫が居るのに……」

「だから番になってないからな?」

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