第10話

「え、なんでウチ?」

「そ、それは、その……」


 俺の質問に、聖女はもじもじと悶えるが、言葉を詰まらせる。

 いや、魔王の所の方が良いと思うんだがなぁ。守備的な意味で。ウチ? 単なる小屋だよ小屋。建てたの俺だけど。

 そんな事を考えていると、力がこもった目で聖女が俺を見る。


「わ、私がオークさんと一緒に居たいんです!」

「ん? それなら群れの方がいいか?」


 オークと居たいとか、人間にしちゃ変わり者がすぎる。あ、それとも俺達オークが人間に欲情しない事を知っているのか? そういう意味なら確かに安全だ。なら群れの方に頼みこまなくては――


「違います! そ、その……あ、貴方と居たいんです!」

「は? 俺? いや、俺は群れで暮らしてないから……」

「もう! どういえば分ってくれるんですか!? 私は、貴方と一緒に暮らしたいんです!」

「……は?」


 ちょっと何言ってるかわかんない。オークと一緒に暮らしたい人間のメスって、正気じゃないぞ?


「お前大丈夫か? 嫌な事が確かに続いたから精神的に疲れてるんじゃないか? 正直合わせたくないけど、酷いようならあの変態に何とかしてもらうけど……」

「ちーがーいーまーすー!」


 大声を出して息切れした様に肩で呼吸するが、聖女は俺を睨み付ける様にして言った。


「――わかりました。ならば私も覚悟を見せます」

「覚悟?」


 俺の言葉を無視して、聖女は立ち上がると纏っている衣類に手をかけた。


「え、ちょ、何して――いや本当に何してるの!?」


 するすると着ている服を脱ぎ捨て、聖女は真っ裸になった。


「――抱いてください」


 聖女は恥ずかしそうにしながらも、身体を隠そうとせずに言った。

 身体とアンバランスな大きさの胸のふくらみ。くびれて細すぎる腰回り。股間に生えている、髪と同じ色をした毛。


 ――何かが、身体の奥からこみあげてくる。


「貴方になら、好きにされて構いません。経験はありませんが、私は少し特殊なので、貴方の……その……それを受け入れる事は、出来ると思います……初めてを捧げるのに、貴方ならば抵抗はありません――いえ、むしろ貴方に捧げて、貴方の子を産みたいと思っています!」


 ――アカン、無理。

 俺は口元を抑えて立ち上がり、外に飛び出した。

 ――そして、近くの木の下で、思いっきり吐いた。

 危ない危ない。危うくぶちまける所だった。流石に食事の席を台無しにするわけにはいかない。食材を無駄にしてしまう所だった。

 いや、それにしても危なかった。うっかり人間のメスとの繁殖を想像してしまうとは。俺もまだまだだな。

 吐いてすっきりして戻った俺を待っていたのは、


「――私って、そんな吐いちゃうくらい気持ちが悪いんですか……?」


ボロボロ涙をこぼしている聖女であった。慰めるのが大変だった。ごめんて。


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