第9話
「――朝か」
朝陽の光が顔に当たり、眩しさで眼を覚ます。
あの後、眠りこける聖女をとりあえずベッドに放り込んでから俺は外で寝る事にした。この辺りで襲ってくるような奴は、時期的にも居ない。
「……ふぅ」
軽く動いて硬くなった体を解す。やっぱり何もない外で寝ると、ちょっと身体にクるものがある。腹も減ったし、飯にしよう。
聖女は多分寝ているだろうから、適当に自分の分だけ。昨日の夜の余りもあるから、そんな物で朝食を済ませよう。そんな事を考えながら、家に入った。
「……何してるんだ、お前?」
家に入って、真っ先に目についたのが、
「――この度は大変申し訳ありませんでしたぁッ!」
何やらすべてを投げ出すかのように、床に頭を着けて倒れている聖女が居た。本当何してんのコイツ?
「いや、その体勢なに?」
「こ、これは……反省や申し訳なさを示す五体投地という姿勢でして……」
「顔あげて起きろ」
「いえ、ですが……」
「その状態でまともに話なんてできんから」
そう言うと、渋々と言った様子で聖女は起き上がった。
「……その、昨日は大変見苦しい姿を」
「覚えているのか?」
「はい……あれほど酔ったのは初めてですが……全部、覚えて……」
そこまで言って、聖女が顔を真っ赤にして俯く。
「いや……まぁ、いきなり腕切り落としたのは流石に驚いたわ」
「……大変御見苦しい物を」
「あ、そういや。とりあえず腕は外に埋めておいたけど、それでいいか?」
「はい、処分して頂ければ」
「そうか。というか、お前の方の腕は大丈夫なのか?」
「え? ええ、まぁ、大した事ではありませんから」
自分で腕切り落とすのが大した事ないわけないだろ。そう言いたかったが「そうか……」としか言えなかった。本当に、腕を切り落とす程度大した事ないと思っている顔だったのだから。
気まずい沈黙が訪れてしまう。何か会話しないと、と思い出たのが「とりあえず飯にするぞ」という、逃げの一手。仕方ないじゃない、なんて顔したらいいかわからなかったんだもの。
聖女が「手伝う」というのを制して、昨日の残りを使って朝食を用意する。見た感じ、昨日の酒が残っている感じは無い。
朝食も、気まずかった。互いに何を言うか探るような、嫌な沈黙。
仕方ない、と溜息を吐いて俺は言った。
「で、どうするつもりだ?」
「どう、とは?」
「これからの事だ」
そう言うと、聖女は身体をびくりと震わせる。触れられたくない話だと思うが、話さないわけにもいかない。
いくつか、俺の方でも考えてみた。聖女を匿えるような奴が居る場所を。
候補はいくつかあるが、中々「ここだ!」と思えるところが無い。
匿ってくれそうな人間の村もあるだろうが、聖女自身が嫌がる可能性はある。あんな目に遭ったしなぁ。オークの群れは――頼み込めば何とかなるかな。その為に土産を用意しないといけない。ただ、何かの拍子で冒険者みたいな人間が入り込み、聖女の存在を知られた場合が面倒な事になる。それを考えると避けたいところだ。
一番良さそうなのが魔王のところだ。そう簡単に人間が来る場所じゃないし、聖女を隠せるだろう。ただ魔王の側近がなぁ。アイツが魔王にベタ惚れだから、変に女っ気入れると俺が恨まれる可能性がある。相談の上になるが、一応紹介状みたいなものは出せる。
とりあえず聖女にいくつか考えた候補を話してみた。魔王の話を出した時は驚いた表情を浮かべたが、すぐに俯いて何か考え込む様子を見せている。
「まぁ、急かせるつもりはない。じっくり考えて、結論が出たら――」
「……が、いいです」
結論が出たようだが、肝心な所が聞き取れなかった。
「お、何処だ?」
「ここが、いいです……ここに、オークさんと一緒に、居させてください……!」
「……はぁ?」
その発想は無かったわー。
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